そして誰かがいなくなる第24回
10
安藤友樹はソファに座ったまま天井を見上げ、重い嘆息を漏らした。
――安藤君には
一週間前、御堂勘次郎からメールで言われた言葉が脳裏に蘇る。
共犯者――。
不吉な響きを帯びる単語だ。とはいえ、担当編集者に実際の犯罪の協力を求めたりはしないだろう。ミステリー作家としてユーモアを忘れない御堂勘次郎のことだ。何かしらの悪戯心でも芽生え、企みが閃いたのかもしれない。
メールで真意を尋ねたときは、一言、『それは時期が来たら明かすよ』と返信がきた。
仁徳社の担当編集者としては、重要な稼ぎ頭である御堂勘次郎の頼みとなれば、犯罪行為などでないかぎり、二つ返事で応じるつもりだ。
だが――。
一体何の共犯者になればいいのか。何かを手伝えということなのか。時期とはいつなのか。結局、何も分からないまま今に至ってしまった。
共犯者が何を意味しているのか、ヒントすら教えてもらっていない。
御堂先生、あなたは一体何を考えておられるのですか――。
御堂勘次郎の担当編集者になったのは、二年と少し前だ。鮮やかな論理(ロジック)に魅了され、文芸の編集者としていつかは原稿をいただきたい、と夢見ていた。他社の担当編集者に頼み込んでメールアドレスを貰って連絡を取り、信頼を得て、晴れて担当することができた。
『次の作品は私の勝負作でね。企みに満ちたアイデアで、作家としての集大成になるだろう』
一年前、御堂勘次郎はメールでそう言った。どのような作品か尋ねたものの、『今はまだ教えられない。第一稿を執筆したら原稿を送るよ』と返信が来た。
進捗状況だけは定期的に報告メールを受けていたが、約束の期日になっても原稿は届かなかった。
御堂勘次郎の頼み事――安藤君には共犯者になってほしくてね――が何だったのかも気になるが、今は......。
腕時計で時刻を確認したとき、控えめなノックの音があり、訪問者が現れた。
「そろそろ結論を聞かせてください」
相手は感情を抑えた声でそう切り出した。
安藤は眉を顰めた。
「御堂さんの代わりに、
Synopsisあらすじ
何かが起こりそうな洋館を建てたいんだよ――。大雪の日、人気作家の御堂勘次郎が細部までこだわった洋館のお披露目会が行われた。招かれたのは作家と編集者、文芸評論家と……。最初は和やかな雰囲気だったが、次第に雲行きが怪しくなっていく。奇想天外、どんでん返しの魔術師による衝撃のミステリー!
Profile著者紹介
1981年京都府生まれ。2014年に『闇に香る嘘』で第60回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。同作は数々のミステリランキングにおいて高い評価を受ける。同年に発表した短編「死は朝、羽ばたく」が第68回日本推理作家協会賞短編部門候補、『生還者』が第69回日本推理作家協会賞の長編及び連作短編集部門の候補、『黙過』が第21回大藪春彦賞候補となるなど、今注目を集める作家である。『難民調査官』『叛徒』『真実の檻』『失踪者』『告白の余白』『サハラの薔薇』『悲願花』『刑事の慟哭』『絶声』『法の雨』『同姓同名』『ヴィクトリアン・ホテル』『白医』『アルテミスの涙』『情熱の砂を踏む女』など著書多数。
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