#刑事の娘はなにしてる?最終回
エピローグ
あれから二十日が経った。
検察に逆送された朝陽は、訴訟を控えていた。
面会窓越しの朝陽は、頬がこけげっそりとやつれ果てていた。
「ずいぶんと痩せたが、飯はちゃんと食ってるのか?」
神谷が問いかけると、朝陽が小さく頷いた。
事件の日以降、朝陽は一言も口を利かなかった。
「腕利きの弁護士をつけたから、安心しろ。お前は被害者だ。それに、奴は五人を殺害している連続殺人犯だ。どう考えても、お前が罪に問われることはない」
神谷は朝陽を励ました。
励ます以外、娘にしてあげられることのない無力な自分を神谷は呪った。
神谷が懸念した通り、「粗大ゴミ連続殺人事件」は佐藤大作の単独犯として処理されようとしていた。
一刑事がなにを喚いたところで、どうなるものでもなかった。
神谷は、朝陽が出所するまで死んだふりを決め込むことにした。
朝陽が出所した暁(あかつき)には、ケジメをつけるつもりだった。
司法で裁けないのなら、神谷が裁くしかなかった。
「また、明日、弁護士とくるから。朝陽、気を落とさずに......」
「私のことを考えてくれるなら、なにもしないで。汚れるのは、私だけでいいから」
朝陽は一方的に言い残し立ち上がると、背を向けドアへと歩いた。
「忘れたのか! 父さんが自己中で頑固な性格だってことを!」
神谷の涙声に、朝陽が立ち止まった。
「父さんから逃げようったって、そうはいかねえ! お前が地獄に行くっつうんなら、喜んで父さんもついて行くからよ!」
神谷は泣き笑いの表情で、朝陽の背中に声をかけた。
五秒、十秒、十五秒......。
朝陽の肩が、微(かす)かに震えたような気がした。
無言で立ち止まっていた朝陽が、足を踏み出しドアの向こう側へと消えた。
Synopsisあらすじ
4件の連続殺人事件が発生した。被害者の額にはいずれも「有料粗大ゴミ処理券」が貼られ、2人は唇を削ぎ落とされ、2人は十指を切断されていた。事件を担当するコルレオーネ刑事こと神谷は、3人目の被害者が、出会い系アプリで知り合った女子大生と会った翌日に殺害されたことを知る。連続殺人の犯人と被害者が抱える現代の増幅する憎悪に迫る!!
Profile著者紹介
大阪生まれ。金融会社勤務、コンサルタント業を経て、1998年「血塗られた神話」で第7回メフィスト賞を受賞し作家デビュー。以後エンターテインメント小説を縦横に執筆する。著書に『血』『少年は死になさい…美しく』『168時間の奇跡』(以上中央公論新社)『無間地獄』『忘れ雪』『紙のピアノ』『枕女王』『絶対聖域』『動物警察24時』など多数。映像化された作品も多い。
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