#刑事の娘はなにしてる?第15回

     8

「御覧の通り、ウチのお客様は女子中高校生が中心です」
 ミルクティーカラーのショートヘアが小顔によく似合う、二十代前半と思しき店員が店内に視線を巡らせながら言った。
 渋谷のファンシーショップ「いろ色」の十坪ほどの店内で、七、八人の女子中高生が声高に喋りつつ商品を物色していた。
「ですよね~」
 メモを手にした三田村が、大きなため息を吐いた。
 ため息を吐きたいのは、神谷も同じだった。
 鑑識課の宝田から得た情報――死体遺棄現場のマンションのエントランスに落ちていたシュシュとクマのキーホルダーを扱う五軒のうち、新宿、池袋、下北沢、吉祥寺の店からは犯人に繋がるような目ぼしい情報を得られなかった。
 だが、気分が滅入る理由はほかにもあった。
 昨夜、夜遅くに帰宅して朝陽の顔を見ようとしたが、疲れているからと部屋から出てこなかった。
 今朝、なにかあったのか事情を聞こうと部屋に行ったが、すでに朝陽はいなかった。
 いつもより三十分以上も早く登校したのは、自分と顔を合わせたくなかったからだろう。
 もしかして、彼氏でもできたのか?
 自分と顔を合わせなかったのは、疚(やま)しいことを......。
 神谷は思考を止めた。
 朝陽のことは、帰宅してから問い質せばいい。
 いまは捜査に集中だ。
「ありがとうございます。なにかありましたら、連絡を......」
「あ! そう言えば、変な......いえ、変わったお客様がいました」
 店をあとにしようとした神谷は、店員の言葉に足を止めた。
「変わったお客様というと?」
 神谷は店員を促した。
「数日前に、中年の男の人と女子高生っぽい女の人がお店にいらっしゃいました」
「女子高生っぽい?」
 神谷は鸚(おう)鵡(む)返しに訊ねた。
「ええ。私服だったのではっきりとは言えないのですが、ウチのクラスが、と言っているのが聞こえたので学生なのは間違いありません」
「父親と中学生の娘という可能性もありますよね?」
 三田村が口を挟んだ。
「大人っぽい女の子で、中学生には見えませんでした。最初は、親子かな、と私も思ったんですけど......」
 店員が言い淀んだ。
「言いづらいことかもしれませんが、捜査にご協力ください」
 神谷はふたたび促した。
「男のお客様は、数ヵ月前にも別の女子高生っぽい女の子とお店にいらっしゃいました。もしかしたら娘さんが二人いるのかもしれませんが、親子という雰囲気でもなかったので......」
 店員が眼を伏せた。
「援助交際みたいな関係ですか?」
 神谷は踏み込んだ質問をした。
「いえ......どうでしょう......」
 店員が困惑した顔で言葉を濁した。
「その中年男性は、シュシュとクマのキーホルダーを購入しましたか?」
 神谷は質問を変えた。
「シュシュとキーホルダーの組み合わせは日に数十セット売れる当店の人気商品なので、そのお客様が購入されたかどうかまではちょっと......」
「数日前に来店というのは、正確にはいつかわかりますか?」
「三日前だったと思います。ちょうどそのときに、地震が起こったので覚えています」
「防犯カメラを見せて頂きたいのですが?」
 神谷は言った。
「防犯カメラですか?」
 店員が訝(いぶか)しげに訊ねてきた。
「ええ。その男性客が来店しているときの映像を確認させてください」
 女子高生らしき少女と店を訪れて、シュシュとクマのキーホルダーを購入した中年男性――神谷のレーダーが反応した。
「私では決められないので、上司に確認の電話を入れてもいいですか?」
 伺いを立ててきた店員に、神谷は頷いた。

#刑事の娘はなにしてる?

イラスト/伊神裕貴

Synopsisあらすじ

4件の連続殺人事件が発生した。被害者の額にはいずれも「有料粗大ゴミ処理券」が貼られ、2人は唇を削ぎ落とされ、2人は十指を切断されていた。事件を担当するコルレオーネ刑事こと神谷は、3人目の被害者が、出会い系アプリで知り合った女子大生と会った翌日に殺害されたことを知る。連続殺人の犯人と被害者が抱える現代の増幅する憎悪に迫る!!

Profile著者紹介

大阪生まれ。金融会社勤務、コンサルタント業を経て、1998年「血塗られた神話」で第7回メフィスト賞を受賞し作家デビュー。以後エンターテインメント小説を縦横に執筆する。著書に『血』『少年は死になさい…美しく』『168時間の奇跡』(以上中央公論新社)『無間地獄』『忘れ雪』『紙のピアノ』『枕女王』『絶対聖域』『動物警察24時』など多数。映像化された作品も多い。

Newest issue最新話

Backnumberバックナンバー