#刑事の娘はなにしてる?第35回

死にたい、でも死ねない、死にたい、まだ死ねない
 楓を救うまで死ねない 三宅を殺すまで死ねない

 朝陽がノートに書き殴っていた文字が、神谷の脳裏に蘇った。
「はい、三宅という偽名も使っていたようですが、それがなにか?」
 怪訝そうな三田村の声が、神谷の鼓膜からフェードアウトした。
 佐藤大作は三宅という偽名でも、「トキメキ?楽部」で未成年女子を漁っていた。
 そして楓は「トキメキ?楽部」に登録していた。
 
 楓を救うまで死ねない 三宅を殺すまで死ねない

 ふたたび、朝陽の書いたノートの文字が脳裏に浮かんだ。
 楓を救うまで......三宅を殺すまで......。
 この二つの文字が意味するのは......楓は三宅の毒牙にかかってしまったのか?
 そうだとして、なぜ朝陽が三宅を殺す必要がある?
 仮に佐藤が楓をレイプしても......親友が凌(りよう)辱(じよく)されたとしても、殺すとまで思うだろうか?
 しかも朝陽は、死にたいと綴っていた。
 なぜ、朝陽が死にたいのか?
 レイプされたのは楓ではないのか?
 それに、楓を救うとはどういうことだ?
 レイプされたあとに、監禁されているのか?
 不意に、神谷の脳裏にある光景が浮かんだ。
 まさか......。
 テーブルの上で、神谷のスマートフォンが震えた。
 神谷はスマートフォンを鷲掴みにした。
 朝陽からのLINEの着信だった。

 二、三日したら帰るから、それまではなにも訊かないで放っておいて。

「放っておけるわけ、ねえだろうがっ」
 神谷は電話をかけようとしたが思い直した。
 電源を切られてしまえば困るからだ。
 
 どこにいる? 無事なのか? 楓ちゃんになにかあったのか? とにかく、余計なことに首を突っ込まないで帰ってこい! 

 神谷はLINEを送信した。
 
 帰ってきても父さんは怒らないから! 約束するから! 父さんに不満があるなら謝る! だから、戻ってきてくれ! いや、とりあえず電話をくれ!

 間を置かず、神谷は二通目のLINEを送信した。
「どうしたんですか? 朝陽ちゃんからですか?」
 三田村が訊ねてきた。
「朝陽が事件に巻き込まれているかもしれない」
 スマートフォンのディスプレイに視線を向けたまま、神谷は強張った声で言った。
「えっ!? 朝陽ちゃんが事件に!? どういうことですか!?」
 三田村が素頓狂な声を上げた。
「おいっ、楓ちゃんのうちに行くぞ!」
 神谷は言いながら立ち上がり、玄関にダッシュした。
「楓ちゃんって、誰ですか!?」
 三田村が訊ねながら、神谷のあとに続いた。
「鑑識の宝田に電話して、署にいるか確認しろっ。いなかったら、すくに出てこいって言え!」
 神谷は背中越しに一方的に命じ、外に飛び出した。

#刑事の娘はなにしてる?

イラスト/伊神裕貴

Synopsisあらすじ

4件の連続殺人事件が発生した。被害者の額にはいずれも「有料粗大ゴミ処理券」が貼られ、2人は唇を削ぎ落とされ、2人は十指を切断されていた。事件を担当するコルレオーネ刑事こと神谷は、3人目の被害者が、出会い系アプリで知り合った女子大生と会った翌日に殺害されたことを知る。連続殺人の犯人と被害者が抱える現代の増幅する憎悪に迫る!!

Profile著者紹介

大阪生まれ。金融会社勤務、コンサルタント業を経て、1998年「血塗られた神話」で第7回メフィスト賞を受賞し作家デビュー。以後エンターテインメント小説を縦横に執筆する。著書に『血』『少年は死になさい…美しく』『168時間の奇跡』(以上中央公論新社)『無間地獄』『忘れ雪』『紙のピアノ』『枕女王』『絶対聖域』『動物警察24時』など多数。映像化された作品も多い。

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