#刑事の娘はなにしてる?第19回

「ぎゃあぎゃあ、うるせえよ! なにが入って......」
 神谷は、言葉の続きを呑み込んだ。
 田所と三田村が、大声を出したのも無理はない。
 神谷の凍てつく視線の先――切り取られた乳房に貼られた、「粗大ごみ処理券」。
 乳輪に大きな黒子(ほくろ)があるのが印象的だった。
「送り主は!?」
 神谷は宮根に視線を移した。
「でたらめだと思いますが」
 宮根が桐の箱が入っていた段ボール箱から引き剥がした送り状を、神谷に差し出してきた。
「山田太郎、港区南青山......たしかに、でたらめっぽいな」
 送り主と住所を読み上げながら、神谷は言った。
「渋谷宮益坂の、コンビニエンスストアから送ってるようだな」
 神谷は送り状を見ながら呟いた。
「粗大ごみシールが貼ってあるってことは、送り主は『粗大ごみ連続殺人事件』の犯人ってことですか!?」
 三田村が興奮気味に訊ねてきた。
「模倣犯の可能性が高いな」
 神谷は桐の箱の中の、切り取られた乳房を見据えながら言った。
「模倣犯ですか?」
 三田村が、怪訝な表情で繰り返した。
「ああ。『粗大ごみ連続殺人事件』の犯人とはやり口が違う。奴らの犯行ルーティンはゴミ置き場に死体を遺棄すること、死体の額に『粗大ごみ処理券』を貼ること、死体の唇か十指を削ぎ落とすことだ」
「でも、粗大ごみシールが貼ってありますよ? 新しいルーティンじゃないんですか?」
 三田村が切り取られた乳房から、顔を逸(そ)らしながら言った。
「唇と十指を削ぎ落とすのは、なにかのメッセージだ。五人目に急に手口を変えるのは不自然だ」
 すかさず神谷は否定した。
「我々にたいしての、挑戦状ということもあるだろう!?」
 田所が苛立たしげに口を挟んだ。
「警察への挑戦状という意味なら、過去の四体の死体が立派な挑戦状だ。いまさらまったく違う方法で警察を挑発するメリットが、連続殺人犯にはない。むしろ、これまでの自分の作品を否定することにもなる」
 神谷はふたたび否定した。
「あくまで君は、連日メディアを騒がせている連続殺人犯に乗っかった模倣犯の仕(し)業(わざ)だと言いたいのか!?」
 田所が、ムッとした口調で訊ねた。
「そうだな。ただし、単に有名犯の真似をしたかったのか、それとも自己主張したかったのか」
 この小包の送り主は、単なる愉快犯ではない――神谷の勘がそう告げていた。
「自己主張? どういう意味だ?」
 田所が質問を重ねた。
「自分をアピールすることだよ! 東大卒のくせに、そんなことも知らねえのか?」
 神谷は鼻で笑った。
「神谷さん!」
 三田村が、強張った顔を神谷に向けた。
「なっ......私を馬鹿にしてるのか! 私が訊いているのは、模倣犯がどうして自己主張する必要があるのかってことだ!」
 田所が声を裏返し、ヒステリックな声で捲(まく)し立てた。
「俺のほうが凄いってことを、アピってんのかもしれねえな」
「なんのためにアピールする!?」
「そんなこと最初からわかってりゃ、警察はいらねえんだよ!」
 神谷は田所に吐き捨て、立ち上がった。
「貴様っ、いい加減に......」
「行くぞ!」
 神谷が田所を遮り、三田村に命じた。
「どこに行くんですか?」
 三田村が怪訝な顔で腰を上げた。
「おっぱいが持ち込まれた宮益坂のコンビニだ。警視正様みてえにデスクにふんぞり返ってても、事件は解決できねえからよ」
 神谷は皮肉を残し、捜査一課のフロアを出た。

#刑事の娘はなにしてる?

イラスト/伊神裕貴

Synopsisあらすじ

4件の連続殺人事件が発生した。被害者の額にはいずれも「有料粗大ゴミ処理券」が貼られ、2人は唇を削ぎ落とされ、2人は十指を切断されていた。事件を担当するコルレオーネ刑事こと神谷は、3人目の被害者が、出会い系アプリで知り合った女子大生と会った翌日に殺害されたことを知る。連続殺人の犯人と被害者が抱える現代の増幅する憎悪に迫る!!

Profile著者紹介

大阪生まれ。金融会社勤務、コンサルタント業を経て、1998年「血塗られた神話」で第7回メフィスト賞を受賞し作家デビュー。以後エンターテインメント小説を縦横に執筆する。著書に『血』『少年は死になさい…美しく』『168時間の奇跡』(以上中央公論新社)『無間地獄』『忘れ雪』『紙のピアノ』『枕女王』『絶対聖域』『動物警察24時』など多数。映像化された作品も多い。

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