#刑事の娘はなにしてる?第8回

「なにこの人......ロリコン丸出しじゃない」
 プロフィールを読んだ朝陽は、嫌悪感に襲われた。
「楓......どうしてこんな人と会うのよ。連絡取らなきゃ......」
 三宅と連絡を取るには、朝陽が会員登録をしなければならない。
 朝陽は若葉の名前で登録した。
 若葉......母がつけようとした名前。
 若葉の名前で登録すれば、母が守ってくれるような気がしたのだ。
 
 若葉
 18歳 東京都目黒区

 自己紹介
 
 はじめまして。
 支援してくれる人を探してます。
 
 詳細情報
 
 外見
 身長160センチ
 スタイル 普通
 
 職種 学歴
 専門学生

 性格 その他
 性格 人見知り
 お酒 
 暇な時間 土日
 同居人 父親
 
 希望する男性のタイプ
 年齢 40代~
 スタイル 気にしない

 朝陽は、三宅好みのプロフィールにした。

 はじめまして!
 若葉と言います。
 来年、海外旅行を計画しているので、支援してくれる方を探しています。
 三宅さんのプロフィールに、10代の女の子を支援するために登録したと書いてありましたのでメッセージしました。
 まずは、顔合わせをお願いできますか?

 メッセージを送信する前に、朝陽は深呼吸した。
  
 楓の安否を問うためには、三宅という男に会う必要があった。
 二人きりになるわけではない。
 人目の多いカフェで会えば安全だ。
 
 メッセージを送信しようとしたとき、ドアが開いた。
「お姫様! 勉強は捗(はかど)っているか?」
 腰にバスタオルを巻いた父が、タオルで髪の毛を拭きながらずかずかと部屋に入ってきた。
「もう、父さんったら、ノックしてって言ってるでしょ? それに、裸で入ってこないでって、何度言ったらわかるの? あと、髪は濡れたままじゃなくてドライヤーで乾かしてって言ってるじゃない」
 朝陽は父に小言を言った。
 父は何度注意しても同じことを繰り返す。
 外では優秀な刑事だが、家では聞き分けのない大きな子供だ。
 嘘が吐けず、不器用で、損得考えずに正しいと思ったことを貫き通す......生き方が下手な男だが、そんな父が朝陽は大好きだった。
「わかった、わかった。次から全部そうするよ。口うるさいところが、だんだん母さんに似てきたな」
 苦笑いする父を見て、朝陽は思いついた。
 楓のことを、父に相談してみようと。
 考えてみれば、それが一番の方法だ。
 父があまりに身近な存在過ぎて、刑事だということを忘れていた。
「なんだ、勉強してるかと思ったらスマホをイジってたのか?」
 父が朝陽の手元を見て言った。
「ちょっと、休憩してただけよ。それより、お父さんに......」
「お前、出会い系のアプリとかやってないだろうな?」
 楓のことを相談しようとした朝陽を遮り、父が訊ねてきた。
「なによ? 急に?」
 動揺を悟られないように、朝陽は言った。
「ちょっと、いろいろあってな。どうなんだ? お前はもちろん、お前の友達にも出会い系アプリとかやってる子はいないだろうな?」
 父が厳しい表情で訊ねてきた。
「そんなの、やってるわけないよ」
 咄嗟に、嘘が口を衝いて出た。
「信じていいんだな?」
「うん。用が済んだら、出て行って。勉強しなきゃだから」
 朝陽は素っ気なく言った。
 これ以上、父と向き合っていると嘘を見抜かれてしまいそうだった。
「いいか? 出会い系をやってる友達に勧められても、絶対に断れよ」
「しつこいな。言われなくても、そんなのに興味ないから」
 隠し事をしていることに、朝陽の胸は痛んだ。
 だが、父に余計な心配はかけたくなかった。
 楓が出会い系アプリで出会った男性と食事をした日に連絡が取れなくなったと知ったら、父は朝陽にかかわるなというに違いなかった。
「じゃあ、父さんは明日も早いから寝るよ。おやすみ、愛するお姫様!」
 父がおどけたように言いながら、朝陽の頬にキスをしてきた。
「もう、キモい! キモい! キモい! 早く出て行って!」
 朝陽は父の背中を叩きながら、ドアへと追い立てた。
「なんだよ、かわいくねえな。五歳の頃は喜んだのに。じゃあな」
 父が部屋から出ると、朝陽は苦笑いを浮かべながらため息を吐いた。
 口で言うほど、父のキスが嫌ではなかった。
 朝陽は真顔に戻り、デスクに戻りスマートフォンを手にした。
 ディスプレイに浮かぶ三宅へのメッセージ――送信するかどうか逡(しゆん)巡(じゆん)した。
 送信すれば、父を裏切ったことになる。
 だが、楓のことが心配だ。
 変な目的ではなく、楓を探すため......父を裏切ったわけではない。 
 朝陽は己に言い聞かせ、送信ボタンをタップした。 

#刑事の娘はなにしてる?

イラスト/伊神裕貴

Synopsisあらすじ

4件の連続殺人事件が発生した。被害者の額にはいずれも「有料粗大ゴミ処理券」が貼られ、2人は唇を削ぎ落とされ、2人は十指を切断されていた。事件を担当するコルレオーネ刑事こと神谷は、3人目の被害者が、出会い系アプリで知り合った女子大生と会った翌日に殺害されたことを知る。連続殺人の犯人と被害者が抱える現代の増幅する憎悪に迫る!!

Profile著者紹介

大阪生まれ。金融会社勤務、コンサルタント業を経て、1998年「血塗られた神話」で第7回メフィスト賞を受賞し作家デビュー。以後エンターテインメント小説を縦横に執筆する。著書に『血』『少年は死になさい…美しく』『168時間の奇跡』(以上中央公論新社)『無間地獄』『忘れ雪』『紙のピアノ』『枕女王』『絶対聖域』『動物警察24時』など多数。映像化された作品も多い。

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