#刑事の娘はなにしてる?第27回

三宅
 45歳 東京都渋谷区

 自己紹介

 企業のCEOだよ。
 正直、お金持ち(笑)
 10代の女の子を支援するために登録したから、お金ほしい子はメッセージよろしく!

 詳細情報

 外見
 身長170
 スタイル ナイスバディ
 
 職種 学歴
 IT関連
 
「なんだこりゃ!? 気色悪い奴だな! ド変態じゃねえか!?」
 神谷は思わず大声を張り上げた。
「神谷さん」
 三田村が咎める顔を神谷に向けた。
「なんだよ!? 本当のことじゃねえか? 四十五のおっさんが書く文面か!? 百歩譲ってただのロリコン変態なら許せるが、こいつはアプリの経営者だろ!?」
 神谷は三宅のプロフィールが表示されたスマートフォンのディスプレイに、人差し指を突きつけた。
「刑事さんの言う通りです。ポール社長のやっていることは犯罪です」
 野沢が言うと、ビールのグラスを口もとに運んだ。
「でも、未成年がマッチングアプリに登録して法的に問題はないんですか?」
 三田村が神谷の疑問を代弁した。
「ええ。『トキメキ倶楽部』は恋人や友達を探すためのサイトですから。女子大生はもちろん、女子高生もたくさん登録してますよ」
 覆面の口元にビールの泡をつけながら、野沢が言った。
「え!? だって、会員同士で大人いくらとかなんとか、パパ活や援助交際のやり取りをしてるじゃないですか!? お宅の社長だって、十代の子を支援したいとかプロフィールに書いていたし」
 三田村が質問を重ねた。
「『トキメキ倶楽部』では、会員同士のメッセージのやり取りには基本的に関知しないという建前になってますから」
 野沢がため息を吐いた。
「実際は売春行為をやらせておきながら、黙殺しているということですね?」
「まあ、そう言われても仕方ないですね」
 三田村が念を押すと、野沢が素直に認めた。
「で、あなたはどうして......」
 神谷は言葉を切り、ウーロン茶を運んできた女性スタッフが退室するのを待った。
「あなたはどうして、危険をおかしてまで内部告発する気になったんですか?」
 神谷は質問の続きを口にした。
「このままだと、取り返しのつかないことになると思ったからです。ポール社長は、三宅を名乗って未成年の女性会員を呼び出してずいぶんとエグいことをやってましたからね」
 野沢の顔が歪んでいるのが、覆面越しにもわかった。
「エグいこととは?」
 神谷は身を乗り出した。
「未成年女子を知り合いの店や部屋に連れ込んで監禁して、レイプした上に嵌(は)め撮(ど)りしています」
 野沢が吐き捨てた。
「嵌め撮り!?」
 三田村が素頓狂な声を上げた。
「以前からそういう噂はあったのですが、あるとき被害にあった女性会員の父親が会社に乗り込んできて大変な騒ぎになりました。それで、スタッフ全員の知るところとなったんです」
「なるほど。そういうことがあったんですね。で、どうなったんですか? 当然、訴訟問題になりましたよね?」
 神谷はウーロン茶で喉を潤しながら訊ねた。
「いえ、示談で話はつきました」
 三田村が言った。
「示談!? そんなはずないでしょう!? だって、十代の娘がレイプされて動画まで撮影されたんですよ!? 普通の親なら、絶対に示談で済ませませんよ!」
 神谷は我がことのように、激しい怒りを覚えた。
 もし、朝陽が同じ目にあったら、その相手をただではおかない。
 逮捕はもちろん、刑務所に入れる前に神谷が殴り殺してしまうかもしれない。
「普通の親ならそうかもしれません。ですが、その女の子の父親は参議院議員でした」
 野沢が含みを持たせた口調で言った。
「参議院議員!? 親父が政治家なら、なおさらただじゃ済まないでしょう!?」
「ポール社長の父親は三友商事の社長で、祖父は会長の渡辺茂です」
「えっ! 渡辺茂って、あの財界の首領(ドン)と言われている渡辺会長ですか!?」
 三田村が驚いた口調で口を挟んできた。
「ええ。渡辺会長の影響力は財界はもちろん、政界、法曹界にも絶大な影響力を持っています。被害者の父親が政治家だったのは、渡辺会長にとっては好都合でした。派閥のボスから圧力をかけさせておとなしくさせるくらい、時の総理が顔色を窺う渡辺会長なら訳ないでしょう」
 野沢が言った。
「たしかに、しがらみも忖(そん)度(たく)も必要ないサラリーマンのほうが示談に応じなかったかもな」
 神谷は独(ひと)り言(ご)ちた。
「つまり佐藤社長の尻拭いを、祖父である渡辺会長がやったということですね?」
 神谷が確認すると野沢が頷いた。
「野沢さん。殺害された石井信助という男性が『トキメキ倶楽部』の会員だったことは知ってましたか?」
 神谷は言いながら、石井の写真を野沢に差し出した。
「知ってますよ。情報番組で司会をやってた人ですよね? ポール社長と大喧嘩をしてましたから」
「石井信助さんと佐藤社長が大喧嘩? 詳しく、教えて貰えますか?」
 神谷は野沢を促した。
 もしかしたら、思わぬ収穫を得られるかもしれない。
「石井さんとポール社長はもともとの知り合いで、というより仲のいい友人でよく飲みに行ってました」
「二人が友人!? 人気のMCとマッチングアプリの変態ロリコン社長が、どうやって知り合ったんですか?」
 すかさず、神谷は訊ねた。
「石井さんは大のギャル好きで、もともとうちのVIP会員でした」
「VIP会員というのは?」
「VIP会員は、一般会員の五倍の会費を支払います。ですが、お金をたくさん支払うだけではだめで、ポール社長の特別審査があります」
「特別審査?」
 神谷は繰り返した。
「はい。VIP会員になるには、社会的ステータスが必要です。医者、弁護士、芸能人、スポーツ選手、実業家......ぶっちゃけ、ブランドです。ポール社長はミーハーなので、有名人や地位が高くお金のある人に弱いんです。VIP会員には、ポール社長がグレードの高い女性会員を個別にアナウンスします。つまりVIP会員になれば、好みのタイプの女性をポール社長が積極的に斡(あつ)旋(せん)してくれるということです」
 野沢の説明に、神谷はめまぐるしく思考を巡らせた。
 佐藤は石井と連絡を取っていないと言っていた。
 VIP会員を守るためということも考えられるが、なにかが違う気がした。
 たとえそうだとしても、石井が殺害されたと聞いたなら嘘は吐かないはずだ。
 普通ならば、仲良くしていたVIP会員が殺害されたとなれば積極的に捜査に協力するだろう。
 嘘を吐く理由――捜査が進むと困る理由がある場合だ。
「二人が大喧嘩したというのは、女性会員が原因ですか? 紹介された女性とトラブルがあったとか、そんな感じのことですか?」
 神谷は質問を再開した。
「いえ、電話で社長が石井さんに激しく喰(く)ってかかっていたときに聞こえたのですが、女性会員のことではありませんでした。どうしてあんなことを言ったんだ、ウチの祖父がカンカンに怒って大変なんだぞ......そんな感じのことを言ってました。お代わりしてもいいですか?」
 野沢がビールのグラスを掲げた。
「もちろんです」
 神谷が言うと三田村がブザーを鳴らした。
「祖父というのは、三友商事の渡辺会長のことですか?」
 注文を取りにきた女性スタッフが出て行くのを見計らい、神谷は訊ねた。
「ええ。僕も詳しくは知らないのですが、石井さんが番組で、渡辺会長が三友グループの実権を長期に亘(わた)って握っていることを激しく非難したらしいんです。九十を過ぎた老人が権力の座に居座り続け三友グループを私物化するのは害悪だというようなことを」
「老害......」
 神谷は思わず呟いた。

#刑事の娘はなにしてる?

イラスト/伊神裕貴

Synopsisあらすじ

4件の連続殺人事件が発生した。被害者の額にはいずれも「有料粗大ゴミ処理券」が貼られ、2人は唇を削ぎ落とされ、2人は十指を切断されていた。事件を担当するコルレオーネ刑事こと神谷は、3人目の被害者が、出会い系アプリで知り合った女子大生と会った翌日に殺害されたことを知る。連続殺人の犯人と被害者が抱える現代の増幅する憎悪に迫る!!

Profile著者紹介

大阪生まれ。金融会社勤務、コンサルタント業を経て、1998年「血塗られた神話」で第7回メフィスト賞を受賞し作家デビュー。以後エンターテインメント小説を縦横に執筆する。著書に『血』『少年は死になさい…美しく』『168時間の奇跡』(以上中央公論新社)『無間地獄』『忘れ雪』『紙のピアノ』『枕女王』『絶対聖域』『動物警察24時』など多数。映像化された作品も多い。

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