
原体験はSF
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今野
文庫といえば、誉田さんは文庫好きなんですよね。文庫を出したくて小説家になったとか。
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誉田
そうなんです。僕が最初に意識したのは角川文庫の横溝正史『犬神家の一族』で、角川映画の第一作になりましたよね。それを姉が文庫で読んでるというのが原風景で、それがすごくカッコよく見えた。『犬神家』を読みたかったんだけど、まだ小学校低学年ぐらいだったので。
- ――ちょっと怖すぎますよね(笑)。
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誉田
表紙も怖かったんですよ(笑)。これは無理だけど、とにかく文庫を読みたいんだから、ほかに何かないのと探したら、星新一さんの『ボッコちゃん』(新潮文庫)があった。で、どうもこれはSFというジャンルらしいと。そこから眉村卓さんとか筒井康隆さんを読み、平井和正さんの『ウルフガイ』シリーズに行って、そのあと、夢枕獏さんとかを読んだりっていうパターンで。
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今野
似たような読書体験ですね。俺は高校の時、もう筒井さんが大好きで。「問題小説」(徳間書店)の新人賞に応募してデビューしたのも、選考委員に筒井さんがいたからです。で、やっぱり『ウルフガイ』が大好きになってね。
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誉田
ああ......僕もやっぱり獏さんと菊地秀行さんが選考委員を務める賞(学研「ムー伝奇ノベル大賞」)に応募したんで、同じですね。
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今野
お互い、似たようなことやってますね(笑)。
- ――今野さんがデビューした1978年は、筒井さんが『富豪刑事』(新潮社)を書いた年ですよね。
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今野
刑事が金にあかして事件を解決するやつね。でもあれ、警察小説か?(笑)
- ――今野さんもSFがお好きだったんですね。
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今野
大好きでした。俺、最初にデビューした時、自分はSF小説家だと思ってた。気がついたら警察小説書いてた(笑)。
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誉田
僕もそういう意味では、ホラー小説出身ですよ。
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今野
吸血鬼とか好きですよね。
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誉田
はい。やっぱり『ウルフガイ』とか、そういう異形のものの影響というのは強かったですね。
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今野
『ウルフガイ』は本当、麻薬的な面白さがありましたよね。
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誉田
面白かったですねえ。
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今野
読み始めると止まんないですもんね。
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誉田
ええ。
- ――誉田さんのお書きになる痛そうな拷問シーンとか、何となく『ウルフガイ』を思わせるような......。
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誉田
え、今回はけっこうソフトにやったつもりなんですけど(笑)。
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今野
『ウルフガイ』の拷問シーンには救いがあるんです。犬神明はどんなひどい目にあっても、月齢が満ちてくると全治するんですから(笑)。
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誉田
確か、ヒゲ剃る時にカミソリの刃が......。
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今野
そうそう、満月に近いと刃こぼれしちゃう(笑)。
- ――誉田さんは、作品の中にけっこう凄惨というか、ショッキングなシーンを盛り込まれますよね。
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誉田
怖いから、自分がやられたら嫌だからっていうのもあるんですけど、ドラマの『太陽にほえろ!』の殉職シーンの容赦のなさが根底にあるんですね。視点人物の目の前で起こってる現実を、オブラートにくるんで見ないようにしては流せないというか。
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今野
俺だって、若い頃はそういうシーンを書いてたんですよ(笑)。だんだん年を取ってくると面倒くさくなる(笑)。
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誉田
僕はまだ、味付けにケチャップとかマヨネーズが欲しい感じです。
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今野
いや、若いやつは許さないよ。今のうちに芽を摘んどかないと、将来脅かされますからね。全力をもって阻止したい(笑)。