
新作について
- ――今野さんの新作『エチュード』は渋谷、新宿で連続通り魔事件が発生、しかし、現行犯逮捕された被疑者がいずれも「自分はやってない」と主張する、非常に謎めいた展開で始まります。
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今野
今回はずばり「手品」です。読者を騙すための仕掛けを随所に盛り込み、文体にまで仕掛けを施しました。手品はどうやって成立しているのか。本質を隠したい時に、他に目を引くポイントを演出すれば、観客はそこを見ちゃうんですよね。人間についても、ひとりひとりを認識しているとすり替えは不可能なんですけれど、ある心理的操作をすることによってそれが可能になる。それは手品の仕組みとまったく同じなんです。
- ――一方、誉田さんの『歌舞伎町セブン』は、日本一の繁華街を舞台に、巨大な陰謀に立ち向かう謎の人々が登場します。これまた、思わず膝を打つ大きな趣向が......。
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誉田
はい。それを言おうかどうか、迷っているんですが(笑)。歌舞伎町って怖い町のイメージがありますけど、現実に行ってみるとちょっと違う。そこにちゃんと住人のいる、生活感のある歌舞伎町を描きたかった。従来の暗黒街的イメージも少し交えつつ、今までとちょっと違う切り口でサスペンスをやってみたかったんですね。
- ――今回、『エチュード』には『触発』などでおなじみの碓氷弘一警部補が登場し、『歌舞伎町セブン』には、『ジウ』の東弘樹警部補が顔を見せるのもファンには嬉しいところです。碓氷警部補は特異なシリーズキャラクターで、常に主役でなく脇役を張りますよね。
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今野
語り部というか、脇役のプロですね(笑)。とにかく組むのが変な人ばっかりなんで、自衛官とか、ハッカーとか。今回は藤森紗英という心理調査官と組みますが、あくまで小説的に作ったキャラクターなので、もしああいうプロファイラーが実際に捜査に加わったら、現場は混乱するだろうなあ(笑)。
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誉田
東は『ジウ』シリーズで準主役、『国境事変』で堂々の主役を張りましたが、今回は完全なる脇役です(笑)。ほんの数シーンしか出てきませんが、でも抜群の存在感と強引さで物語を引っ掻き回してくれます。頼もしいです。