新たな才能との出会いを求めて創設したC★NOVELS大賞も第6回を迎え、今年も多数の応募作の中から大賞1作、特別賞1作を選出することができました。スケールの大きな物語のなかで、葛藤しながらも成長するキャラクターの魅力溢れる2作品です。どうぞ刊行を楽しみにお待ちください。
一作の長篇小説を書き上げる力はそれだけでひとつの才能ですが、ただ書いただけでは読者に伝わりません。そこでよく、読者の身になって見直せ、と助言したりします。しかしこの賞の選考を重ねるうち、その表現では足らないと思うようになりました。楽しみを受け取る読者としてではなく、俳優を動かす演出家や、観客の反応を狙う映画監督の目で、自分の作品を見直して欲しいのです。脚本に弛みはないか、役者の性格付けはぶれていないか、クライマックスの仕掛けは充分か、読後にカタルシスはあるか......。そこに意を注ぎ、工夫を凝らし、自在に操ることが、小説を書く者の特権であり、最大の面白みでもあるのです。
自分の創造した物語が誰かの心を動かす――この歓びを目指して、第7回へのご応募をお待ちしています。
吾火裕子『吟遊翅ファティオータ』
〈あらすじ〉
海上を駆ける水棲馬(ハトゥーバ)の騎士であるシルッカは、海上集落を襲うトゲウオ退治の任務についていた。被差別民(サクォーリアン)の血を引くため、相棒で帝国第一皇子でもある騎士リンゼイからは蔑まれている。水上集落がトゲウオに襲われ全滅した夜、トゲウオの幼生を拾い……。
〈選評〉
海上を駆ける馬、トゲウオ、石など独自のモチーフがきちんと機能しており、世界を魅力的にみせていた。また戦闘シーンや海を駆けるシーンなどでは、巧みな文章力でビジュアルを想起させる。キャラクターの肉付けや関係性もよく描けており、物語の展開とあいまって一気に読ませる。会話の書き分けや誤字など問題もあるが、この世界をもっと読みたいと思わせる作品。
〈受賞コメント〉
名誉ある大賞を頂戴しまして、誠にありがとうございます。同じくらい大きな責任を感じつつ、心から御礼申し上げます。
長いあいだ、見たことのない景色、色鮮やかな夢(しかも自分が見たい夢!)を文字にするのが私の日課でした。それが仕事になるかもしれないことに、驚いています。
くたびれきって帰った家で、そこに異世界への扉が開いていたら? たとえば、枕元に本を置いておくだけで。それを可能にする、ワンダーに満ちた物語を描くことが目標です。
私の拙い小説の一頁目、一行目が、どうか「扉」となりますように。
片倉弓弦『翼の末裔』
〈あらすじ〉
谷に棲まう刀牙竜と共生する「竜使い」の集落。少女レラシウは幼馴染のシノカントに嫁いだが「竜使いに向いていない」と言われてしまう。夫ほどの腕前で飛べないことを思い悩むレラシウに「街」の令嬢シャーロットから竜による荷運びの依頼が舞い込んで……。
〈選評〉
竜の生態についてはにおい、巣など細かい部分にまで気配りがなされており、好感が持てる。「女は飛べない」という夫の台詞の意味を追究する過程で生じる、主人公たちの葛藤もよく練られていた。文明の衝突を描く際に見られた拙さや、ラストに対する消化不良感など、もう少し詰めてほしい部分も散見されるが、素直に主人公を応援したい気持ちにさせられた。
〈受賞コメント〉
まずは夢への第一歩を踏み出す機会を下さった編集部の皆様に、心より御礼申し上げます。本当にありがとうございました。
突然の朗報にただただ驚いています。未だ半信半疑なつもりで居たのに、書店で急に後ろめたくなったり、ノベルスの棚で闇雲な恐怖とこの上ない喜びを感じたりと、深い部分では確実に適応しているようです。我ながら現金なものです。
これからは日々努力を積み、自分のペースで一歩一歩進んで行きたいと思います。暖かい目で見守って頂ければ幸いです。
※掲載は筆名、タイトルの順です。(順不同、敬称略)
吾火裕子 |
『吟遊翅ファティオータ』 |
※掲載は、筆名、タイトルの順です(順不同、敬称略)
来条恵夢 |
夜が明けるまで |