2017 07/20
著者に聞く

『プロテスタンティズム』/深井智朗インタビュー

東洋英和女学院の新マーガレット・クレイグ記念講堂にて。

ルターの宗教改革500周年の年に、その思想的な潮流を大きな枠組みで描き出そうとした『プロテスタンティズム』。著者の深井智朗さんは、どのような意図を込めて執筆したのか、お話をうかがった。

――本書を執筆した理由を教えてください。

深井:一つには、プロテスタンティズムの解説書が日本ではほとんどないからです。宗教改革やアメリカにおける影響力など、個別にはさまざまな本が出ています。ただ、全体を見渡して一般読者に説明するようなものは見当たりません。そのため、日本人にも理解しやすい見取り図を示す本が必要だと感じていました。なるべく宗派的な事情にとらわれず、歴史の流れのなかでプロテスタンティズムをどう位置づけるのかという視点で書いたつもりです。

もう一つは、プロテスタントとは何か、という問いに対して自分なりの現時点での回答を示せればと思ったからです。多くの優れた思想家や研究者が向き合ってきた問いなので、これまでのささやかな自身の研究を踏まえて、考えた次第です。

――『プロテスタンティズム』では、マルティン・ルターを大きく取り上げています。深井さんは個人的にルターという人物をどのように見ていますか?

深井:彼は走りながら考えた人、という印象が強いですね。体系的にものを考えるというより、動く現実と向き合いながら、悩み考えた人です。なので、矛盾することなどもたくさん言っています。

とくに若いころは情熱的でエネルギッシュですよね。また、ユーモアのある人だったことを伝えるような話がいくつも残っています。そういえば、諸説あるようですが、ボーリングの基本的なルールを定めたのはルターだという話もあります。晩年は自身の起こした改革が思わぬ方向へと進んでいき、悩みが深かったかと思いますが、何にせよ非常に多面的な人物であることは間違いないでしょう。

――プロテスタンティズムの現在については、どのようにご覧になっていますか?

深井:基本的にプロテスタンティズムは分裂の宗教だと思っています。なので、一つの流れに向かうようなことは考えにくいですね。もともと、権威ある教皇や公会議でも間違う可能性はあるとし、信仰の根拠を聖書に置いたところからプロテスタンティズムは始まっています。

ただ、聖書に依拠するということは、その読み方や解釈は各人に委ねられるわけです。すると、カトリックと違って最終的な決定者である教皇がいませんから、言うなればそれぞれが小さな教皇のようになってしまい、まとまらなくなってしまうのです。しかしまた、多くの分裂と争いを繰り広げ、その和解を繰り返し模索し続けたプロテスタンティズムだからこそ、歴史的な経験を現在に活かせる部分もあるのではないかと考えています。

――2017年はルターの宗教改革から500周年です。ドイツでは盛り上がっているのでしょうか。

深井:そうですね、記念切手など、さまざまなグッズも出ていますよ。大きな話でいえば、2017年だけは宗教改革記念日である10月31日が、ドイツ全体の祝日になりました。ドイツは全国の祝日と州レベルの祝日が異なります。これまでは比較的プロテスタントが多い北の州だけが、この日は休みでした。南のほうの州は、諸聖人の日である11月1日が休みでしたが、2017年は10月31日も休みとなったのです。

500周年をきっかけにして、日本でもルターやプロテスタンティズムに関連する本などに触れる人が増えてくれればと思います。評伝では、徳善義和『マルティン・ルター』(岩波新書)などがあります。また、永本哲也、猪刈由紀、早川朝子、山本大丙編『旅する教会』(新教出版社)のような優れた本も出ています。

――今後のお仕事についてお聞かせください。

深井:本書でも触れましたが、ナチス時代のルター派の動向は掘り下げていきたいと考えています。また、共産主義政権下の東ドイツにおけるプロテスタンティズムも研究したいです。

あと、そう遠からず講談社学術文庫で訳した『宗教改革三大文書』が出ます。まだやりたいことはたくさんあるのですが、なかなか手が回らないものですね。

深井智朗(ふかい・ともあき)

1964年生まれ。アウクスブルク大学哲学・社会学部博士課程修了。Dr. Phil.(アウクスブルク大学)、博士(文学)京都大学。聖学院大学教授、金城学院大学教授を経て、現在、東洋英和女学院大学人間科学部教授。著書に 『超越と認識』(創文社、中村元賞受賞)、『十九世紀のドイツ・プロテスタンティズム』(教文館、日本ドイツ学会奨励賞)、『思想としての編集者』(新教出版社、2011年)、『ヴァイマールの聖なる政治的精神』(岩波書店)、『パウル・ティリヒ』(岩波現代全書)ほか多数。訳書にフリードリヒ・シュライアマハー『宗教について』(春秋社)、エルンスト・トレルチ『近代世界の成立にとってのプロテスタンティズムの意義』(新教出版社)などがある。