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第1巻 | 刺青、羹、悪魔ほか |
2巻 | 恋を知る頃、熱風に吹かれて、饒太郎ほか |
3巻 | お艶殺し、お才と巳之介、金色の死、神童ほか |
4巻 | 鬼の面、人魚の嘆き、異端者の悲しみほか |
5巻 | 二人の稚児、人面疽、金と銀、白昼鬼語ほか |
6巻 | 小さな王国、母を恋ふる記、呪はれた戯曲ほか |
7巻 | 女人神聖、美食俱楽部、恐怖時代ほか |
8巻 | 鮫人、AとBの話、アマチユア俱楽部ほか |
9巻 | 愛すればこそ、お国と五平、藝術一家言ほか |
10巻 | アベ・マリア、肉塊、無明と愛染ほか |
11巻 | 神と人との間、痴人の愛ほか |
12巻 | 赤い屋根、友田と松永の話、饒舌録ほか |
13巻 | 黒白、卍(まんじ)ほか |
14巻 | 青塚氏の話、蓼喰ふ虫、三人法師ほか |
15巻 | 乱菊物語、盲目物語、吉野葛ほか |
16巻 | 武州公秘話、恋愛及び色情、青春物語ほか |
17巻 | 蘆刈、春琴抄、陰翳礼讃ほか |
18巻 | 文章読本、聞書抄、猫と庄造と二人のをんなほか |
19巻 | 細雪 上巻、細雪 中巻ほか |
20巻 | 細雪 下巻、月と狂言師ほか |
21巻 | 少将滋幹の母、幼少時代ほか |
22巻 | 過酸化マンガン水の夢、鍵、夢の浮橋ほか |
23巻 | 三つの場合、当世鹿もどき、残虐記ほか |
24巻 | 瘋癲老人日記、台所太平記、雪後庵夜話ほか |
25巻 | 初期文章、談話筆記、創作ノート、歌稿ほか |
26巻 | 日記、記事、年譜、著作目録、著書目録、索引ほか |
明治・大正・昭和の半世紀にわたり、常に進化しながら、膨大な数の作品を書き続けた、まさに「文豪」の名にふさわしい作家、谷崎潤一郎。人間存在そのものに肉迫した傑作の数々は、没後50年過ぎた今なお、日本のみならず海外でも高く評価されています。
谷崎の生まれた1886年(明治19)は、くしくも小社創業の年でもあり、25歳のときの「秘密」をはじめ、「吉野葛」「盲目物語」「春琴抄」「細雪」「鍵」、晩年の「瘋癲老人日記」等、代表作の多くが雑誌『中央公論』『婦人公論』に発表されるなど、非常に強い関係を保ち続けました。
谷崎生誕130周年と中央公論創業130周年を記念して、その豊かな世界を網羅した、決定版「谷崎潤一郎全集」をお届けいたします。
中央公論新社
谷崎潤一郎が没して早50年。この50年間に文学をめぐる環境は大きく変わったが、人間の生に根差した本源的なものをさぐり、それを魅惑的な物語に結晶させた谷崎文学は時代を超えて読み継がれてきた。時代は活字の文化からITのデジタル文化へ移行したが、私たちが生きるうえに必要な物語の力を涸渇させてしまってはならない。20世紀の日本文学において絢爛たる作品世界を構築し、馥郁たる物語性を発揮した谷崎は「大谷崎」と称され、半世紀にわたり第一線で活躍しつづけたその作家活動からは数多くの名作が生み出された。
今回の決定版「谷崎潤一郎全集」は、新たなコンセプトによって編成しなおし、使いやすく、読みやすくなるようにさまざまな配慮を施した。収載する作品の配列は、基本として作者の最終完成形を示す単行本の形式を復元させ、それに編年体の方式を加味した。また谷崎文学の研究者の力を結集し、これまでの谷崎全集にはなかった「解題」をはじめて付し、初出紙誌、初刊本などいくつかの本文を校合して、主なヴァリアントを記載した。「細雪」など原稿が現存しているものに関しては、原稿とも校合した。
決定版の名にふさわしいように、谷崎潤一郎の文学的な業績を網羅したばかりか、ご遺族の協力のもと創作ノートや日記、メモの類にいたるまで豊富な新資料を収めた。旺盛なる谷崎の創作の秘密を私たち読者に開示する、今後の谷崎研究には必須の全集である。ここから新たな谷崎文学の魅力も発掘し得るものと確信する。
編集委員:千葉俊二
明里千章
細江 光
最初に読んだ谷崎の文章は、『陰翳礼讃』だった。それまで、大谷崎、というような言葉に怖じ気づいて遠ざけていたのが、すっ飛んだ。言葉は平易で、なかみも読み易いのに、最後までわかるということがない。わかるのだけれど、自分がわかっていることの奥にまだ何かがあるような心地なのだ。その心地が、たいそう快い。驚いて、続けていくつかの小説を読んだ。それぞれに異なり、けれどそれぞれに谷崎だった。谷崎の小説は、谷崎だ、と表現するしかないような気がする。ほかに、似たものを読んだことがない。さっぱりしているのに、芳醇。怖いのに、わくわくする。そして、ぜんたいにおいしそう。食べものが描かれているところでなくても、なんだかおいしそう。おいしそう、は、官能的、という言葉にも置きかえられるけれど、官能、という言葉では足りない気もする。そういうふうに色々感じながら読み終えると、またひとたび読みたくなる。それが谷崎というものなのだ。
「春琴抄」や「蘆刈」のように作者の見聞や記録の記述で読者におやこれはノンフィクションかと思わせながら徐徐に物語の核心へと導く手法と、マゾヒズムに近い自己犠牲。「卍(まんじ)」のように思わず笑い出してしまう途方もない饒舌。また谷崎自身が封建的ロマンへの憧れを抱きながら一方ではそこから脱出しようとする対創作的心情が「蓼喰う虫」では主人公に投影されていたりする。かと思えば谷崎のユーモア感覚炸裂の「武州公秘話」における鼻が落ちた織部正の話し言葉に抱腹絶倒。「鍵」や「瘋癲老人日記」の老人性欲は若い時に読んでも早く老人になりたくなるほど蠱惑的だ。「痴人の愛」や「卍」の痴呆にまで至る情愛の強烈さ。古きよき時代の東京をたっぷりと賞翫できる「幼少時代」。滋味横溢の「陰翳礼讃」。その他すべての作品に及ぶ展開の妙。やはり谷崎は実に面白い。しかしまだ半分も読んでいないのだ。 この全集で残りを読破したいものである。
優れた芸術家は、その人にしか造り得ない固有の世界を造り、人類への贈物とし、土に還る。谷崎潤一郎がいなかったら、北斎やヘンデルがいなかったのと同様である。そこまで人に言い切らせる谷崎も幸せなら、その谷崎を原文で読める我々も幸せである。 小さい頃から谷崎が好きで、いずれ全作品を読みたいと思っていた。やがて異国の大学町で暮らすうちに、そんなことをしたら、日本に飛んで帰り、紅白粉をぬり、帯をキュウキュウと鳴らし、やれ音楽会だ、花見だと人生を謳歌したいという、実現不可能な衝動にかられるだろうと思い、谷崎は避けるようになった。それが二十代の半ばを過ぎた頃である。意を決して全集を手に取れば、そのようなことはなかった。ひたすら読む毎日だった。一巻から順繰りに読んだせいであろう。かくもめまぐるしく変化していった谷崎の世界が、これまた、どこまでも谷崎固有のものである事実に驚かされた。さらに充実した全集が出るのは人類への新たな贈物である。
◎四六判上製・函入り
◎装幀 ミルキィ・イソベ
◎装画 山本タカト
◎豪華執筆陣によるエッセイ掲載の月報付き
◎各巻定価 本体 6,800円(税別)