もぐら新章 3第五回

第一章

1(続き)

 ドアがノックされた。竜星が返事をすると、同居している古谷節子(ふるやせつこ)がさんぴん茶とサーターアンダギーを持って、入ってきた。
「勉強は進んでる?」
「まあ、ぼちぼち」
 竜星は答え、肩越しに真昌を見やる。
 節子は机にかじりつく勢いでノートに漢字を書いている真昌を見て、目を細めた。
 竜星の机に、お茶の入ったコップ二つとサーターアンダギーを盛った盆を置いた。
「真昌、少し休憩しなさいな」
「にふぇーでーびる、おばー。けど、今やらないと、続かない気がするから、あとでもらうさ」
「そう。がんばってね」
 節子は優しく見つめ、うなずいた。
「楢さんは?」
 竜星が訊く。
「早くに出かけたっきり。今日はお昼はいいみたいね」
「金武(きん)さんのところかな」
「そうだと思うぞ」
 真昌が答えた。
「今日あたり、西崎に建築事務所の人が来るって言ってたから」
 金武は糸満市の西崎地区で、琉球空手の道場を開いていた。しかし、事件に巻き込まれ、道場ごと爆破されてしまった。
 今後、どうしようかと思案していた時、コロナウイルスが蔓延し始めたために、稽古自体ができなくなった。
 金武はこの機会にクラウドファンディングで資金を集め、道場を建て直すことにした。
 今日はようやく資金のめどが立ち、建築士に新しい道場の設計を依頼する日だった。
 楢山(ならやま)は金武道場の顧問のような立場。元警察官という肩書もあり、立ち会いにはうってつけだった。
「道場はいつ頃できるのかしら」
 節子が言う。
「わかんないです。金武先生はすぐにでも始めたいみたいだけど、稽古も濃厚接触になるじゃないですか。それで、大人数の稽古もできないし、新しい生徒も募集できないみたいで」
「大学も再開できないくらいだもんな。半年とか一年先になるんだろうな」
 竜星が言う。
「まあでも、師範たちは空き地で上半身裸で稽古してるけどな」
「怪しさ満点だな」
 竜星が笑う。節子と真昌も笑った。
「俺も、3類の審査で体力検査があるから、体を動かしておきたいんだけどなあ」
「そっちは大丈夫だろう。今は、漢字と作文だ」
「そうだよなー」
 真昌は大きなため息をつくと、再び気合を入れ直し、書き取りを始めた。

(続く)

もぐら新章 3

Synopsisあらすじ

最強のトラブルシューター「もぐら」こと影野竜司の死から十年余。生前の父を知らぬ息子・竜星は沖縄で高校生になっていた。
竜司のかつての戦友・楢山とともに、沖縄の暴力団組織「座間味組」や、沖縄の開発利権を狙う東京の「波島組」との戦闘を乗り越えた竜星だったが、親友の安達真昌とともに己の生きる道を模索していた。(もぐら新章『血脈』『波濤』)

そして今、沖縄随一の歓楽街に、不意の真空状態が生じていた。松山・前島エリアに根を張っていた座間味組は解散し、そのシマを手中に収めようとした波島組も壊滅状態。その空隙を狙うように、城間尚亮が、那覇の半グレたちの畏怖の対象だった渡久地巌の名を担ぎ出して、動き出したのであった……。

Profile著者紹介

1964年兵庫県生まれ。文芸誌編集などを経て、小説家へ転向。「もぐら」シリーズ(小社刊)が110万部を突破した。他の著書に「リンクス」シリーズ、「D1」シリーズ、「ACT」シリーズ、「警視庁公安0課 カミカゼ」シリーズ、『コンダクター』『リターン』『AIO民間刑務所』などがある。

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