2018 05/09
私の好きな中公新書3冊

専門家をもうならせる「入門書」/山本芳久

深井智朗『プロテスタンティズム 宗教改革から現代政治まで』
堀米庸三『正統と異端 ヨーロッパ精神の底流』(現在は中公文庫)
浅見雅一/安廷苑『韓国とキリスト教 いかにして"国家的宗教"になりえたか』

キリスト教神学という、我が国においてはかなりマイナーな分野の研究を志した学生時代以来、中公新書から得てきた知的刺激は、極めてタイムリーであり、かつ、永続的なものであった。

最も近いところで言えば、深井智朗『プロテスタンティズム』は、我が国においてこれまで刊行されたプロテスタンティズムについての最も優れた、かつ読みやすい一冊としてすべての人にお薦めしたい。ルターやカルヴァンに代表されるいわゆる「宗教改革」のみではなく、「改革の改革」として成立した現代にまで至るプロテスタント諸派の系譜を総合的に理解するための最善の一冊である。宗教改革500周年の2017年に刊行された本書は、まさにタイムリーでありつつ同時に永続的な価値を有する新書の代表格と言えよう。

キリスト教神学を志した学生時代に触れたのは堀米庸三『正統と異端』である。「正統」と「異端」との熾烈な争いを軸として展開したキリスト教史の本質をえぐり出した本書は、中世のキリスト教思想の魅力に開眼させてくれた私の知的原点の一つである。と同時に、いまになって再読して驚くのは、本書の専門性の高さである。一度読み飛ばして終わりといった雑誌まがいの「新書」が蔓延している昨今、初学者にも専門家にも繰り返し知的刺激を与えてくれる本書は、新書というものの一つのモデルとして永続的な意義を有していると言えよう。

最後の一冊として選びたいのは、浅見雅一/安廷苑『韓国とキリスト教』である。前近代から現代に至る朝鮮半島のキリスト教を本格的に紹介した本書は、「欧米のキリスト教」を相対化する視点を与えるのみではなく、同じ東アジアに属する我が国のキリスト教との異同についての認識をも与えながらキリスト教の多様性に開眼させてくれる快著である。

当該分野における最良の入門書であるからこそ、専門家にも多くの刺激を与え続ける書物群、それが私にとっての中公新書である。確かな専門性に裏付けられた明解な記述に満ちたこれらの著作群が、手に取りやすい新書という形で存在していることが、キリスト教研究という地味な分野を、手堅くかつ持続的に支え続けていることを、一専門家として痛感している。

山本芳久(やまもと・よしひさ)

1973年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。現在、東京大学大学院総合文化研究科准教授。西洋中世を代表する神学者・哲学者であるトマス・アクィナスの研究を軸としながら、キリスト教・ユダヤ教・イスラム教の比較神学的・比較哲学的研究に従事している。著書に『トマス・アクィナスにおける人格の存在論』(知泉書館)、『トマス・アクィナス 肯定の哲学』(慶應義塾大学出版会)、『トマス・アクィナス 理性と神秘』(岩波新書)などがある。