ほりいけんいちろう

コラムニスト。1958年京都府生まれ。
早稲田大学卒業。日常の些細な疑問を徹底的に調査し、データ化して文章を書くのが信条。
著書に『やさしさをまとった殲滅の時代』などがある

第1回

真面目なのに不遇、いじめ、依存症……
2010年のドラマは暗さが残る!?

『コード・ブルー』はサブタイトルが"ドクターヘリ緊急救命"で、つまりは、ヘリコプターで飛ぶ若いお医者さんたちの救命救急青春ドラマ。若手の医者役には、山下智久、新垣結衣、戸田恵梨香、浅利陽介の4人が並び、青春チックで、けっこう人気ドラマでした。もともと08年の夏にやっていた木曜のドラマが、1年半経って月曜9時に移動してきて、きちんと数字を取って(平均17%)、堂々、このクールの1位になった。救命救急というある種の人気定番ものに青春テイストを加えて、そんでもってなんと毎回ヘリコプターに乗れるというのが人気の原因だったのではないか、とおもいます。ヘリに乗ると興奮しますもんね。おれはするよ。もっと乗りたいよ。


 続編ものをのぞくと、このクールでは『曲げられない女』の人気が高かった。主演は、曲げられない女、菅野美穂演ずる荻原早紀。恋人みたいな坂本正登役に塚本高史、友人に、高校時代まったく仲良くなかった同級生・長部璃子(永作博美)と、警察署長・藍田光輝(谷原章介)。
 荻原早紀は真面目で融通がきかなくて、会話の流れを止めてでも言い間違いを訂正し、「すみません、正確に言っておきたいので」と言うのが口癖で、弁護士になろうと司法試験を9年受けて落ち続けている、弁護士事務所に勤めるパラリーガールです。なんだかとても地味でした。10回目の司法試験に挑もうとしているが、勤め先をクビになり、金銭的にも貧窮し、長年つきあっていた彼氏と別れて、でもそのあとつかず離れずの状態が続いて、その彼の子供を妊娠するが、結婚しないという、なかなか大変な状況の女性です。
 誰にも後ろ指をさされないようにきちんと真面目に生きている。でも、人生順調とは言えず、つらいことも多く、それでも自分の意志を曲げようとせず、貫こうとしている。そのへんが働く女性に共感されたんだとおもう。
真面目でいい子だから、ふだんは人に迷惑をかけない早紀だけれど、でも怒りがたまると突然キレて、そのおもいのたけをぶちまける。璃子と藍田はそれを見ながら「ああ、心のシャッターが開いた」と言う。その叫びは「我慢していた女性が、言いたいことを本当に叫ぶ瞬間」で、見ていて爽快でした。ややコメディタッチであり、(藍田は警察署長でありながらいつもヒマそうだし、しかもいきなり辞職して料理人になる)、全体に楽しい空気は流れている。でも、底に流れているのは"人生うまくいかない"という気分です。うまくいかない気分をストレートにドラマにするとつらくて見てられないから、ぎりぎり希望が持てる展開にしているけど、基本は、なんか暗いものを抱えているドラマでした。つらいことがあっても無理にでも笑顔、というのがこのドラマの永作の役どころなのだけれど、ドラマ全体にもそういうトーンがにじんでいた。
 警察ものや病院ものというのは、社会的な地位が保証された刑事や医者が発信するドラマだから、ある意味、上から目線のドラマとなるのだが、この『曲げられない女』は下から上昇しようという物語で、つまり下からドラマで、それが支持されたのでしょう。ただ「上を向いている気持ちは明るいが、生活実情は暗い」という部分をしっかり見せてました。
 おそらく10年当時、そういう社会的な空気があったということなのだ。モノは足りているはずなのに、生活が楽しくない、というような気分です。たしかにそんな感じだった気がする。


 このクールの非続編もの平均視聴率2位は『泣かないと決めた日』で(平均11%ですが)、これはもうおもいっきり暗いドラマです。主人公は榮倉奈々演じる角田美樹で、夢いっぱいで入社した会社で徹底的にいじめられる、というドラマでした。見ていて僕はとてもつらかったです。同期で親友とちかいあった立花万里香(杏)が、じつはもっとも激しくいじめてたり、同じ部署の先輩が全員一致団結して新入社員の美樹をいじめたり、もう、いじめでおなかいっぱいです。いじめ女性陣は杏以外には、木村佳乃、片瀬那奈、紺野まひる、有坂来瞳というメンバーで、途中で榮倉奈々側についてくれる子たちが増えるんですが、いやはや、大変ないじめでございました。
 薄幸の主人公が、周囲の不理解から徹底的に蔑まれるも、本人の強い力で耐え抜いて、まわりを味方に引き入れて、最後は幸せに、というのは昭和のむかしの少女漫画最強のパターンだったわけですが(そこに白馬の王子さまもからむ)、その世界をドラマで展開してくれました。少女心を強く持った人は、最後に勝つと信じて一緒に耐えて見続けられるのかもしれませんが、おら、無理だよ。そんな強い少女心はありません。許してくださいまし。でも平均視聴率10%以上だからそこそこきちんと支持されてるわけで、こういうのに耐えられる人が僕は怖いです。すいません。人の悪意を見続けたいという強い心持ちを僕はまったく持ち合わせていません。持たなくていいとわたしはおもうし、持たずに生きていきます。こういうのが好きな人とはできれば関わりたくないんだけど、そういうわけにいかないんだよなあ人生は。とにかく、僕には直視できないレベルの"暗いいじめドラマ"でした。
 でも『曲げられない女』と同じ、女性ががんばったドラマだということはできる。
 いい男が出てきてそれを愛でるドラマには、『ヤマトナデシコ七変化』や『左目探偵EYE』『特上カバチ!!』あたりが用意されてました。


 ヤマトナデシコは、亀梨和也に手越祐也、内博貴、宮尾俊太郎に大政絢の学園ドラマ。ジャニーズメンバーを中心にしたイケメンドラマですね。でも、スナコ(大政絢)の「まぶしいものが苦手」と言っていつも黒い衣に包まれているあたりにしっかり"暗さ"がありました。もともとまったくリアリティのない学園コメディなのに、ダークサイドからの視点が入っているのが、〝ストレートに明るく上を目指す物語〟が受け入れられない気分を表しているようでした。
『左目探偵EYE』は山田涼介に横山裕のジャニーズ2人が愛之助と夢人という弟と兄の役で、それに石原さとみ演じる狭山瞳がからむ学園&警察ものでした。左目の角膜を兄夢人から移植された主人公は特殊能力を身につけるんだけど、まあ、暗いです。瞳が"買い物依存症ながらとても明るい"というキャラクターでドラマの明るい部分を担当してたけど、主人公の兄弟ラインはとても暗いです。
『特上カバチ!!』は桜井息子のドラマ。櫻井翔です。都知事選のときに櫻井パパが話題になってたからねえ、そのまま知事になっていたら櫻井息子に桜井パパと言われてただろうに、消えてしまって残念です。その櫻井息子の行政書士の物語です。世間の実際によくある金銭トラブルを解決していくドラマでした。「借金返済日を口約束で変更したことは法的に有効でしょうか」と櫻井くんがカメラを正面から見て、つまり視聴者に直接語りかけるように出題をしていましたが(口約束は有効だそうです)、そういうバラエティ要素も加えて、おもしろく楽しく仕上げようとしてました。でもまあ、失敗でしたね。数字は初回こそ約13%ありましたが平均9%で、成功したとはいえません。ドラマであまり欲張るとよくないです。
 暗さの目立つ10年の始まりでした。
 考えてみれば、この時代はまだアナログ放送で、ただ画質が悪いから暗く見えてるだけなのかもな、とおもってしまいました。なわけないか。