もぐら新章 波濤第二〇回

第3章(続き)


 楢山は、比嘉と共に安里真栄の病室を訪れた後、そのまま沖縄県警本部に来ていた。
 昨夜、小波蔵交差点近くで起きた事件は、本部と所轄の刑事部捜査第一課が合同で主体となり、捜査をしている。
 そこに組織犯罪対策部が合流したのは、殺されたのが仲屋光喜だったからだ。
 仲屋は元座間味組の準構成員。綱村啓道の動向を注視していた比嘉は、仲屋の死と綱村の出所に関連性がないかを調べていた。
 比嘉の部下が情報を集めて回っていた。
 綱村の件は、楢山や竜星にも関係する。楢山は少しでも情報をつかんでおきたくて、比嘉の脇で上がってくる報告に目を通していた。
 楢山の表情は渋い。
「比嘉、どう思う?」
「そうですね......」
 比嘉の顔も、楢山と似たような表情になっている。
 というのも、上がってくる報告のどれを見ても、仲屋と浦崎、もしくは安里真栄とのつながりがまったく出てこないからだ。
 車の近くで殺されていたのは、仲屋が経営するキャバクラで働いていた熱田亮(りょう)だということもわかっているが、熱田についても、浦崎や真栄との関わりは皆無だった。
 午前中、楢山は、少し起きていた真栄にも話を聞いてみたが、仲屋や熱田については名前も知らなければ会ったこともないと言っていた。浦崎もおそらく知らないだろうとも語った。
「何がしたかったんだ、仲屋は?」
 楢山がつぶやく。
 仲屋は島に戻ってきた後、実業家として成功している。その手法についてはきな臭い部分もあるものの、熱田のような使用人ならともかく、社長として地位を確立している仲屋がわざわざその立場を打ち壊すような真似をするとは思えない。
 所轄から、浦崎と真栄の近況が上がってきた。
 二人は、南部の観光開発に反対する市民団体で代表的な役割を務めていたと記されている。
 楢山は、真昌から開発の噂を聞いたことがある。
 話を聞いた後、楢山は独自に調べてみた。そうした話は県議会内であるものの、具体的な動きにはなっていないという結論に至った。
 また、その四方山話(よもやまばなし)に仲屋が絡んでいるという情報も一切なかった。
 現場では、五人の血痕が見つかっていた。二つは仲屋と熱田のもの。もう二つは浦崎と真栄のものだ。が、残る一人についてはわかっていなかった。
 真栄たちの乗った車は、黒いSUVの側面に突っ込んでいた。
 状況から見て、SUVが道を塞ぎ、そこへ真栄たちの車が突っ込んだと思われる。
 その後、乱闘となり、仲屋たち三人が真栄たちを襲い、真栄たちは抵抗して、浦崎が誤って殺害してしまった、というところだろう。
 襲撃時の状況は、現場に遺された車やバットや遺体などを見れば、容易に推測できた。
 しかし、現場の状況が判明するほどに、仲屋たちの目的がわからなくなっていく。
「なんらかの物を取られた様子もないので、おそらくは脅迫でしょうね」
 比嘉がモニターに表示された報告を見つめながら言った。
 楢山もその見立てには同意する。
「真栄たちの市民運動について、もう一度調べてみるか?」
「それなら、うちの方で少し調べてますよ」
 データを表示する。
 楢山は比嘉のモニターを覗き込んだ。マウスを取って、スクロールしてみる。
 窓口になっているのは、糸満出身の古城という県議だった。
「この県議、調べてみたか?」
「ええ」
 比嘉がマウスを受け取り、別のデータを表示する。
 当選二回、三十五歳の県議会議員で、浦崎や真栄らとは顔なじみでもある。目立った実績はないが、県議会には休まず出ているし、県内の視察や地元の集会もよく行なっている。
 浦崎をリーダーとする市民団体は、近年、南部で測量を行なう者や買収を持ちかけてくる業者を問題視し、その真意を調べるよう、古城に依頼していた。
 古城の事務所から、正式な報告書が出されている。
 測量していた業者は観光バス業者で、南部の動線を確認していた。家や畑の買収を持ちかけた業者は、古民家を民泊の宿にしようと画策している業者だと判明している。
 共に、県北部の開発に関わっている業者だった。
「この、エージナ島周辺の観光開発という話、おまえはどう思う?」
 報告書を読みながら、楢山が訊いた。
「調べさせましたが、噂の域を出ない話ですね」
「やはりそうか。その程度の話で、脅迫をかけるとは思えんな。仲屋が糸満の方にキャバクラを出すという話はなかったか?」
「今のところ、そうした話も出てきていませんね。まあ、那覇以南に出店しても、集客は見込めないでしょうから、わざわざ抵抗勢力のいる場所への出店は考えないでしょう」
「そうだな......」
 楢山は腕組みをして、うなった。
 と、捜査に出ていた知念(ちねん)という若い刑事が戻ってきた。
「ただいま、戻りました」
 比嘉に挨拶をし、楢山に一礼する。
「ご苦労。何か出てきたか?」
 比嘉が訊く。
「目立った関連性は出てきませんでしたが、少々気になる情報が」
「なんだ?」
「四日前、前島の仲屋の事務所に来客があったそうです。その来客というのが、沢田俊平。東京の歌舞伎町で手広くキャバクラを出店している人物です」
「仲屋は、その沢田という男からキャバクラの経営ノウハウを得たというわけか?」
「おそらく、そうだと思われますが、気になって照会をかけてみました。すると、警視庁の組対四課にデータがありました」
「四課? ヤクザか?」
 楢山が訊いた。
 知念は楢山に顔を向けた。
「正式な組員とは断定されていませんが、沢田が経営する〈ウインドサン〉という飲食店経営会社は波島組のフロント企業の可能性があると記されていました」
 知念の報告に、比嘉と楢山は思わず顔を見合わせた。
「本当か、そりゃあ」
 楢山が目を大きくした。
「可能性という報告なので確定ではありませんが、この時期に座間味と関わりのあった波島が動くというのは、偶然にしては出来すぎかなと思いまして」
「仲屋の会社も波島のフロントということか?」
「今、仲屋の会社の従業員も含め、調べています」
 知念が答える。
「わかった。引き続き、仲屋周辺とアイランドウェーブに関係する者を調べてくれ」
「わかりました」
 知念は報告を終えると、再び署から出て行った。
「波島が絡んできたとなると、面倒ですね」
 比嘉がうなる。
「そうだな。綱村は今、どこにいる?」
「東京の臨海地区にあるホテルです。外出したという報告は受けていません」
「何しに東京へ行ったんだ?」
「わかりませんね。熊本刑務所を出た後、空港に一人で現われ、羽田からタクシーで今のホテルに移動しています」
「道中、接触した者は?」
「まだ、確認できていません」
「早急に調べてくれるか?」
「そうですね」
 比嘉は署内に残っていた部下を呼びつけた。綱村の動向を洗い直すよう指示をする。
 楢山は腕組みをしたまま、宙を睨んでいた。

もぐら新章 波濤

Synopsisあらすじ

最強のトラブルシューター「もぐら」こと影野竜司の死から十年余。生前の父を知らぬ息子・竜星は沖縄で高校生になっていた。ひょんなことから、暴力団組織・座間味組が手がける犯罪に巻き込まれ、かつて父・竜司とともに数々の難事件にあたってきた仲間たちとともに事件解決に乗り出した竜星は、度重なる危機の中で亡き父から受け継いだ「最強の血」を覚醒させる。(『もぐら新章 血脈』2018年3月刊)

座間味組を解散に追い込んで一年余、高校三年生の竜星は平穏な日々を送っていた。ところがそこに、かつて座間味組の武闘派グループを率いていた最凶の男・綱村啓道が刑務所から出所しようとしていた……

Profile著者紹介

1964年兵庫県生まれ。文芸誌編集などを経て、小説家へ転向。「もぐら」シリーズ(小社刊)が100万部を突破しブレイクした。他の著書に、「リンクス」シリーズ、「D1」シリーズ、「ACT」シリーズ、「カミカゼ 警視庁公安0課」シリーズ、『コンダクター』『リターン』『AIO民間刑務所』などがある。

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