もぐら新章 波濤第一五回

第2章(続き)


 仲屋ら三人は、桑原が用意したマンションの一室で時を待った。
 下調べは、桑原の部下が行なっている。仲屋たちは、桑原からの知らせを待って、襲撃するのみ。
 お通夜のようなひきこもり暮らしが丸二日続いた。
 仲屋は、できればこのまま、桑原から連絡がこないことを祈っていた。
 熱田と豊崎も同じ気持ちなのか、マンションで寝食を共にしているものの、ほとんど言葉を交わさない。
 そして、三日目の午後一時すぎ、桑原から連絡が入った。
「──うん、そうか、わかった」
 仲屋が電話を切る。
 リビングで仲屋の脇にいた熱田と豊崎が、仲屋の顔をまじまじと見つめた。
 仲屋が二人を見返す。
「今晩、浦崎を襲撃することになった」
 仲屋の口から、思わずため息がこぼれる。
「浦崎は糸満で農業関係者と会合をして、午後十時すぎに家に戻る予定らしい。ヤツの車は、小波蔵交差点から県道3号線を南下してくる。俺たちは、三百メートルほど南で待ち伏せて、そこを襲う」
 桑原からの指示を熱田と豊崎に伝える。
「社長、どうしてもやんなきゃならないんですか?」
 豊崎が訊いた。
「いろいろあるんだよ。覚悟決めろ」
 仲屋は自分に言い聞かせるように、強い口調で言った。
 豊崎は押し黙り、うつむいた。
「社長。浦崎の車を停めて、襲うんですよね。浦崎以外の誰かが乗っていたらどうするんですか?」
 熱田が訊く。
「それは......」
 仲屋は返答に詰まった。腕組みをする。少し思案し、熱田を見やった。
「浦崎自身を襲わなくてもかまわない。車を壊せ。要するに、脅しをかけりゃいいだけだからな」
 仲屋の頬に笑みが浮かぶ。
 自身で言いながら、この手があったと気づいた。
 何も人間を壊す必要はない。脅せばいいわけだから、車をめちゃくちゃに破壊するだけでいい。普通の者なら、十分怯える。
「浦崎や他のヤツが出てきたら、どうするんですか?」
 豊崎が訊く。
「一発殴って、また車を叩き壊せばいい。人にも暴力を振るうとわかって、さらに車をぶっ壊せば、逆らわないだろう」
「そうですね! そうします!」
 豊崎の顔にも笑みが浮かんだ。
 熱田もホッとしたように頬を緩めた。
「一つだけ言っておくぞ。何があっても、浦崎や他の連中を殺すな。殺しになったら、面倒な話になる。何発かぶっ叩いて、車をぶっ壊したら、適当なところで退く。勝手な真似はするな。わかったな」
 仲屋に言われ、熱田と豊崎は首肯した。
「道具、揃えとけ」
「はい」
 二人は立ち上がり、襲撃に使う目出し帽やバットを用意し始めた。

もぐら新章 波濤

Synopsisあらすじ

最強のトラブルシューター「もぐら」こと影野竜司の死から十年余。生前の父を知らぬ息子・竜星は沖縄で高校生になっていた。ひょんなことから、暴力団組織・座間味組が手がける犯罪に巻き込まれ、かつて父・竜司とともに数々の難事件にあたってきた仲間たちとともに事件解決に乗り出した竜星は、度重なる危機の中で亡き父から受け継いだ「最強の血」を覚醒させる。(『もぐら新章 血脈』2018年3月刊)

座間味組を解散に追い込んで一年余、高校三年生の竜星は平穏な日々を送っていた。ところがそこに、かつて座間味組の武闘派グループを率いていた最凶の男・綱村啓道が刑務所から出所しようとしていた……

Profile著者紹介

1964年兵庫県生まれ。文芸誌編集などを経て、小説家へ転向。「もぐら」シリーズ(小社刊)が100万部を突破しブレイクした。他の著書に、「リンクス」シリーズ、「D1」シリーズ、「ACT」シリーズ、「カミカゼ 警視庁公安0課」シリーズ、『コンダクター』『リターン』『AIO民間刑務所』などがある。

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