もぐら新章 波濤第一二回

第2章(続き)


 タクシーを流していた内間は、北谷で同い年くらいの男を拾った。
 停車して、後部ドアを開ける。細身でサングラスをかけた金髪メッシュの男だ。眉は細く、サングラスの下に覗く目つきも悪い。
 派手な赤い開襟シャツを着て、白く太いズボンを穿き、左手をポケットに突っ込んでいる。
 ドアを閉め、バックミラーを覗く。
「にーにー、どちらまで?」
「松山だ」
 ぞんざいな口ぶりで言い、シートに仰け反って脚を組む。
「下道で行きましょうかね?」
 内間が訊く。
「どっちでもいい! さっさと出せ!」
 居丈高に声を荒らげる。
 内間はバックミラーを睨んだ。
「ん?」
 よく見ると、見覚えのある顔だ。じっとミラーを見つめる。
「早く出さんか!」
 男は助手席を蹴(け)った。
「おまえ、和人(かずひと)か?」
「あ? 誰だ、てめえ」
 男は脚を解いて、助手席のシートをつかみ、身を乗り出した。斜め後ろから、内間を睨みつける。
 内間は首を傾け、振り向いた。
 顔を見た途端、吊り上がっていた男の眉尻が下がった。
「内間さん、ですか」
「ですかじゃねえよ」
 内間が見据える。
 男はサングラスを外し、シートに浅く座り直して背筋を伸ばした。
「ごぶさたしてます」
 頭を下げる。
 男の名前は、豊崎(とよさき)和人という。内間の一年後輩で、渡久地剛(つよし)とよくつるんでいた男だ。
「松山でいいんだな?」
「はい、お願いします」
 先ほどの乱暴な口調と違い、丁寧で弱々しい。
 内間はため息をついて前を向き、車を発進させた。
「おまえ、まだそんなチンピラみてえな形をしてんのか?」
「これは、その......」
「落ち着いてねえな。今、何やってんだ?」
「松山のキャバクラで働いてます」
「なんて店だ?」
「ゴールドラッシュという店です」
「ああ、熱田(あつた)が店長やってるとこか」
「知ってるんですか?」
「行ったことはねえけどな」
 内間が言う。
 熱田という男もまた、内間の一年後輩で、豊崎の仲間だった。
「おまえ、あそこのオーナーは仲屋(なかや)さんだろ」
「そうですけど......」
 豊崎が言葉を濁す。
「あまり、いい噂は聞かねえぞ、あの人は。そっちの道に入っちまったか?」
「とんでもない!」
 豊崎が顔を上げた。
 バックミラー越しに目が合う。と、豊崎はすぐに顔を伏せた。
 仲屋は、元座間味組の準構成員だ。座間味組解体後、島から姿を消していたが、半年前に戻ってきて、松山で店を始めた。
 今では松山にキャバクラ三店舗を構える会社の代表を務めている。
 仲屋は元々、半グレ上がりのチンピラだった。座間味組があった頃は、組の看板を利用して、松山で好き放題暴れていたが、後ろ盾をなくした途端、逃亡した。
 しかし、半年前、何事もなかったような顔をして戻ってきたと思ったら、いきなり、松山でキャバクラを開いた。
 女の子は、地元だけでなく、内地からも集め、クオリティーが高い店として、たちまち評判になった。
 ただ、質が高い分、料金も高額で、時折トラブルも起こしているという噂は耳にしていた。
 客とのトラブルが起こった時、たいがいは地回りの組関係者が間に入り、収める。
 だが、仲屋は自分が赴き、トラブルを収めているようだった。
 内間は不思議に思っていた。
 仲屋はよく知っている。渡久地巌と同世代の先輩で、たまに巌にくっついてきたこともある。
 巌が島を去ってからは、座間味組に出入りし、準構成員として、取り立てや用心棒まがいの仕事をしていた。
 蛇のような顔をしていて、見た目は怖い。しかし、腕っぷしはそうでもなかった。ハッタリだけで勝負するタイプだ。
 なので、座間味でも正式な組員になれなかったと聞いている。
 そんな仲屋が、なんの後ろ盾もなく戻ってきて、松山で商売を始めるとは思えない。しかも、トラブルを自身で処理しているというのは、過去の仲屋を知る者からすると、信じがたい増長(ぞうちょう)ぶりだ。
 このことは、内間たち、昔仲間の間でも噂になっていた。
 ただ、もうみんなカタギとして生活しているので、深く追求することもなく、関わらないようにしていた。
「仲屋さん、座間味が潰れてからはすっかりカタギになりましたよ」
 豊崎は空々しく言い添えた。
 内間はバックミラー越しに豊崎を見つめ、小さく息をついた。
「まあ、本当にカタギになっているならいいが、仲屋さんがもしそっち関係とつながっているなら、あまり深入りするなよ」
「ホンモノになる気はないですから」
「ああ、ヤクザなんかになるな。もし、面倒なことになったときは言ってこい」
「ありがとうございます」
 豊崎は頭を下げた。
 内間は内心、面倒は持ち込まないでくれと思いつつ、兄貴面した手前、余裕を滲ませ、微笑んでみせた。

もぐら新章 波濤

Synopsisあらすじ

最強のトラブルシューター「もぐら」こと影野竜司の死から十年余。生前の父を知らぬ息子・竜星は沖縄で高校生になっていた。ひょんなことから、暴力団組織・座間味組が手がける犯罪に巻き込まれ、かつて父・竜司とともに数々の難事件にあたってきた仲間たちとともに事件解決に乗り出した竜星は、度重なる危機の中で亡き父から受け継いだ「最強の血」を覚醒させる。(『もぐら新章 血脈』2018年3月刊)

座間味組を解散に追い込んで一年余、高校三年生の竜星は平穏な日々を送っていた。ところがそこに、かつて座間味組の武闘派グループを率いていた最凶の男・綱村啓道が刑務所から出所しようとしていた……

Profile著者紹介

1964年兵庫県生まれ。文芸誌編集などを経て、小説家へ転向。「もぐら」シリーズ(小社刊)が100万部を突破しブレイクした。他の著書に、「リンクス」シリーズ、「D1」シリーズ、「ACT」シリーズ、「カミカゼ 警視庁公安0課」シリーズ、『コンダクター』『リターン』『AIO民間刑務所』などがある。

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