もぐら新章 波濤第一〇回

第2章(続き)


 沖谷令子は議員会館を訪れていた。
 執務机の前にあるソファーに腰かけ、千賀理と向き合っている。
「どうだ、南部開発の件は」
 千賀が訊ねる。
「私と那波の方の準備は進んでいます。けど、土地の接収はまだメドが立っていません」
 令子は正直に答えた。
「君が言っていた綱村という男は、まだ動かんのか?」
「渋っているようですね」
「使えんな、生長も」
 千賀は言葉を吐き捨てた。
「まあ、先生。そう焦らないで下さい」
 令子がなだめる。
「そういうわけにもいかんのだ。選挙も近い。そろそろ、これという実績を示さなければ、その他大勢に埋没してしまう」
「当選はなさるでしょう?」
「まあ、そのあたりは固いと思うが、油断はできない。政府が失態を演じれば、風も変わる。だからこそ、盤石にしておきたい」
 千賀は言った。
「先生のそういう姿勢、私も見習いたいと存じます」
 令子は言いつつ、腹の中で失笑していた。
 小さい男だと思う。
 失言で失墜した時、あわてずにやり過ごせば、今頃は、与党の中核として復活できていた。
 しかし、失言後にあわてふためき、前言を撤回したと思えば言い訳を重ね、支離滅裂になってしまった。
 その一貫性のなさと問題処理能力の低さが、与党幹部から見限られた原因でもある。
 ところが、本人はその点に気づいていない。
 いまだに、当時の失言がなければ、自分は次世代のホープとして邁進(まいしん)していると信じている。
 実に愚かしい。が、そういう男だからこそ、令子には利用価値があった。
「古城さんの方の話し合いはどうなっていますでしょうか?」
 令子が訊いた。
「そっちもうまくいっていないようだ。まったく、あいつも使えんな」
 ぞんざいに言い捨てる。
 ドアがノックされた。男性秘書が顔を覗かせる。
「先生、商工組合の方がお見えです」
「わかった。沖谷君。すまんが、少し急いでくれ」
「承知しました」
 令子は頭を下げ、席を立った。

もぐら新章 波濤

Synopsisあらすじ

最強のトラブルシューター「もぐら」こと影野竜司の死から十年余。生前の父を知らぬ息子・竜星は沖縄で高校生になっていた。ひょんなことから、暴力団組織・座間味組が手がける犯罪に巻き込まれ、かつて父・竜司とともに数々の難事件にあたってきた仲間たちとともに事件解決に乗り出した竜星は、度重なる危機の中で亡き父から受け継いだ「最強の血」を覚醒させる。(『もぐら新章 血脈』2018年3月刊)

座間味組を解散に追い込んで一年余、高校三年生の竜星は平穏な日々を送っていた。ところがそこに、かつて座間味組の武闘派グループを率いていた最凶の男・綱村啓道が刑務所から出所しようとしていた……

Profile著者紹介

1964年兵庫県生まれ。文芸誌編集などを経て、小説家へ転向。「もぐら」シリーズ(小社刊)が100万部を突破しブレイクした。他の著書に、「リンクス」シリーズ、「D1」シリーズ、「ACT」シリーズ、「カミカゼ 警視庁公安0課」シリーズ、『コンダクター』『リターン』『AIO民間刑務所』などがある。

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