もぐら新章 波濤第一四回

第2章(続き)


 豊崎は熱田と開店準備をしていた。
「今日も忙しいんかなあ」
 グラスを磨きながら、豊崎がつぶやく。
「うちは人気店だからな。まあ、忙しい分だけ給料も上がる。ちばりよー」
「そうだやー」
 豊崎は息をつき、拭き終えたグラスを棚に並べた。
 ドアが開いた。仲屋と桑原の姿を認める。豊崎と熱田は手を止めて直立した。
「お疲れさんです!」
 二人の声に気づき、フロアにいた黒服や女の子たちも立ち上がって一礼した。
「みんな、今日もよろしく」
 仲屋はフロアに笑顔を向けた。
「熱田、豊崎、ちょっと来てくれ」
 桑原が言う。
 仲屋と桑原が事務所へ入っていく。熱田は他の黒服に準備を指示し、豊崎と共に事務所へ行った。
 桑原と仲屋が並んでソファーに座っている。二人は仲屋たちの前に立った。
「二人とも、よく働いてくれてありがとうな。おかげで、会社の売り上げも順調だ」
 仲屋が言う。
 いきなり褒められ、熱田と豊崎は顔を見合わせて照れ笑いを覗かせた。
「一号店開店当初から、おまえらがしっかり働いてくれたから、今の成功があると思っている。これからも頼むぞ」
「はい!」
 二人が声を揃えた。
「そんな頼れる君たちに、少し頼みがあるんだ」
 桑原が口を開いた。ゆっくりと二人を見やる。
「ちょっと、社長と大事な仕事をしてもらいたい」
 桑原が真顔で言う。
 熱田と豊崎の顔が緊張で強ばった。
「どういう仕事でしょうか?」
 熱田が仲屋に顔を向けた。
「襲撃だ」
 仲屋はストレートに切り出した。
 熱田と豊崎の顔からかすかに残っていた笑みが消えた。豊崎は唾を飲み込んだ。
「商売敵ですか?」
 熱田が訊く。
「いや、俺たちとはまったく畑の違う男だが、やらなきゃならなくなってな。で、俺の周りで最も信頼できるおまえらに手伝ってもらいたい」
 仲屋が下から見つめる。
 有無を言わせない眼力だ。二人はうつむいた。
「仕事が終わるまで、店は俺が回しておくから心配するな。君らは社長の指示に従って動け。いいな」
 桑原が言う。
「いつからですか?」
 豊崎が訊いた。
「今からだ。着替えてこい」
 桑原が命じた。
 熱田と豊崎は顔を見合わせ、渋々事務所を出た。
「あいつらで大丈夫か?」
 仲屋は閉まったドアを見つめた。
「一応、島の人間で、ということなんで、仕方ないですよ。他は、県外から連れてきた連中ばかりですから。まあ、あいつらがどうだろうと、社長がガツンとかましてくれたらいいだけですから」
 桑原が笑う。
 気楽なもんだな......と思いつつも、仲屋は笑みを返した。
 二人が着替えて戻ってきた。
「よし、じゃあ君らは、社長と行ってくれ。俺はこのまま店を開くから」
 桑原が立ち上がった。
「社長、よろしくお願いします」
 直立して、頭を下げる。
 仲屋はおもむろに立ち上がった。従業員の前で気弱な様を晒すわけにはいかない。
 手下を付けたのも、このためか──。
 沢田や桑原に嵌められているようで忌々しいが、このまま流れるしかない。
「車は下に待たせていますので」
 桑原は言い、頭を下げた。
「じゃあ、頼んだぞ」
 仲屋は偉そうな態度を気取り、熱田と豊崎を連れて事務所を出た。
 桑原は頭を下げたまま、ほくそ笑んだ。

もぐら新章 波濤

Synopsisあらすじ

最強のトラブルシューター「もぐら」こと影野竜司の死から十年余。生前の父を知らぬ息子・竜星は沖縄で高校生になっていた。ひょんなことから、暴力団組織・座間味組が手がける犯罪に巻き込まれ、かつて父・竜司とともに数々の難事件にあたってきた仲間たちとともに事件解決に乗り出した竜星は、度重なる危機の中で亡き父から受け継いだ「最強の血」を覚醒させる。(『もぐら新章 血脈』2018年3月刊)

座間味組を解散に追い込んで一年余、高校三年生の竜星は平穏な日々を送っていた。ところがそこに、かつて座間味組の武闘派グループを率いていた最凶の男・綱村啓道が刑務所から出所しようとしていた……

Profile著者紹介

1964年兵庫県生まれ。文芸誌編集などを経て、小説家へ転向。「もぐら」シリーズ(小社刊)が100万部を突破しブレイクした。他の著書に、「リンクス」シリーズ、「D1」シリーズ、「ACT」シリーズ、「カミカゼ 警視庁公安0課」シリーズ、『コンダクター』『リターン』『AIO民間刑務所』などがある。

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