新たな才能との出会いを求めて創設したC★NOVELS大賞も7回を数え、今年も多数の応募作の中から特別賞2作を選出することができました。それぞれに個性溢れる2作品です。どうぞ刊行を楽しみにお待ちください。
選考を通じて、全体の水準が上がっていることを改めて実感しています。一方で、残念な例もありました。たとえば、一巻を費やしてようやく主人公が目的を見いだすような作品です。悩める主人公を書きたいならば(難易度は高いと思いますが)いいのです。しかし、主人公が受け身に終始し、状況に流されているだけでは読者の共感は得られません。
あるいは、主人公の目的も物語のゴールもすべて隠してしまった結果、読者が置き去りにされてしまう作品です。「謎」は物語を牽引する大きな力となりますが、見せ方を工夫しないとその魅力は伝わりません。
どちらも「伝え方」の問題です。作者の独りよがりになっていないか、もっと効果的な演出はないか、常に考えてください。
自分の創造した物語が誰かの心を動かす??この歓びを目指して、第8回へのご応募をお待ちしています。
(該当作なし)
あやめゆう『フェアリーエッジ』
尾白未果『雷獅子昇伝』
■あやめゆう『フェアリーエッジ』
〈あらすじ〉
貧しい少年レイジは、ある日、湖のほとりで妖精姫リエルに出会う。世間に失望する彼に「私に期待しなさい」と告げるリエル。だが、幼い二人の日々は『影』の襲撃によって突然に幕を閉じたのだった。そして五年後、灰色狼と呼ばれ恐れられる存在となったレイジは、妖精姫の危機が今も続くことを知り??孤独な姫と孤独な狼のお伽噺。
〈選評〉
主人公である「灰色狼」やヒロイン「妖精姫」の、「屈折していながら直球」なキャラクターが非常に魅力的。突き抜けた設定ではないものの、独特の麻薬感・中毒感があり、読者をぐいぐい引っぱる力のある作品。謎が一章ずつ広がるストーリーも凝っていた。個性的なだけに好き嫌いが分かれるのでは、という声もあったが、その文章力・構成力が高く評価された。
〈受賞コメント〉
受賞の報を頂いたとき、目の前に巨大な地割れが起こったような気がしました。この深く大きな溝を飛び越えて「私」から「あなた」へ、届けなければならない??そう思いました。受賞の嬉しさが半分、そして恐ろしさが半分です。
小説とは呪文のようなもの、小説というものは読まれることで効果を発揮する魔法のようなものだと思います。これまで様々な魔法を受け取ってきた私が、今度は呪文を唱える側に立つのは、やはり不安があります。そしてそれ以上に嬉しさがあります。
出来ることなら、私の拙い魔法が「あなた」に届きますように。いえ、きっと届かせてみせます。楽しんでいただけたのなら、これに勝る幸いはありません。
■尾白未果『雷獅子昇伝』
〈あらすじ〉
天地に五つの災害をもたらす五頭の災獣がいた。彼らは争いを続けていたが、海を治める龍神により五つの島国を守護する神となる。神槌之国は雷獅子を祀る国であったが、南の薙古之国の罠にはまり雷獅子を失い国の実権を奪われてしまった。その奪還戦が今にも始まろうとする矢先に、少年・緋乃人は迷い込んだ少女を助けたことから計画を台無しにしてしまう。
〈選評〉
最後まで一気に読まされる、リーダビリティの高さは応募作中随一。大きな物語世界の中で、キャラクター同士の話に絞っているのがプラスポイントになっている。テンションが一本調子なのが気になったが、語りの上手さは一級品。起承転結がきちんと作られているのも好感度が高い。「災獣」の描写はビジュアル的にも想像力を刺激される、魅力あるものだった。
〈受賞コメント〉
自分の好きな物語を書いて生きていけたら……。そんな夢は胸に秘めていましたが、一生手が届くことはないだろうとどこかで諦めていました。でもやらずに諦めるならやって諦めた方がまし。そう思って始めた投稿でまさかこのような賞をいただけるとは。今は喜びよりも不安で胸がいっぱいです。
ともかく、編集部の皆様本当にありがとうございました。選んでくださった皆様とC★NOVELSの読者の皆様、それに私の周りの皆様をがっかりさせることがないよう、精一杯食らいついて行くつもりです。どうぞよろしくお願いいたします。
※掲載は筆名、タイトルの順です。(順不同、敬称略)
石井颯人 |
『琥珀の夢』 |
※掲載は、筆名、タイトルの順です(順不同、敬称略)
佃木犬星 |
『まだらひめ』 |