C★NOVELS30周年のメモリアルイヤーとなった今年度も、多数のご応募をいただきました。ありがとうございます。白熱の選考会の末、今年は2作の特別賞を選出することとなりました。読者の皆さまにお届けできる日を編集部も楽しみにしております。今しばらくお待ちいただければと思います。
全体として、読みやすい作品が多く、文章力は上がってきているように思います。一方、物語のスケールと作品の分量とが釣り合っていないものが多いように思われました。たとえば、世界設定やキャラクターを盛り込むだけ盛り込んで、後半駆け足で説明不足になり、物語として昇華できていないもの。逆に、物語のスケールが小さいのに、規定枚数の上限いっぱいまで書いているために中盤が間延びしてしまっているもの。また、大きな物語の番外篇的な一篇と感じさせてしまうもの。賞には規定の枚数があります。それに見合った世界を作り上げることが重要なのです。
物語を作るということは世界を作るのも大事ですが、小説である以上、読者の存在を忘れてはいけません。読者にその世界を共有させること、読者を楽しませることをもっと考えて欲しいと思います。
このC★NOVELS大賞もおかげさまで次回は第10回を迎えることとなりました。記念として、いつもの編集部からの賞に加え読者選考委員による「読者賞」を設けます。また、残念ながらしばらく出ていない大賞もこの節目の回にはぜひと願っております。我こそはと思われる方、ご応募お待ちしております。
(該当作なし)
卯薙靖十郎『英雄《竜殺し》の終焉』
鈴樹すみれ『貴方の首にくちづけを』
■戒能靖十郎『英雄《竜殺し》の終焉』 ※卯薙靖十郎改め
〈あらすじ〉
交易都市クリザの領主は、かつて大陸を襲った竜を倒した英雄《竜殺し》アルズレッド・リーイン。その「英雄を倒した」との名声を得んと挑んでくる者は多く、半年に一度武闘会も開かれるが、《竜殺し》は優勝者をもやすやすと倒し続ける。無敵の英雄・完璧なる領主・都市の守護神と称される彼が見せる倦んだ表情を知るのは、古くから仕える執事とメイドのみだった――そんなある日、彼の元に「黒」を狩るという《白の狩人》が現れて……
〈選評〉
物語に見せ場もあり、カタルシスも感じさせる筋の通った力強い作品。英雄と執事、メイドそれぞれのキャラクターも良い。物語を登場人物の関係性に終始させず、作り上げた世界での国家間の力関係と絡めているところに力量を感じた。《白の狩人》など概念的な存在を、意欲的と評価するかわかりにくいとするかで意見が分かれた。また、文体や構成がスケールを小さく感じさせることを指摘する声もあった。
〈受賞コメント〉
中学生のころ小説の世界に魅入られてからずっと描いていた夢に、ようやく指先が届きました。
あのころ、本屋や図書館ははじめて入る場所でも自分の家のように感じられたものですが、その第二の我が家の片隅に自分の本が並ぶのかと思うと、嬉しいというより空恐ろしい気持ちでいっぱいです。
そして第二の我が家では、かつて多くの作家に「物語が面白いというだけで心は救われる」ということを教えていただきました。私も一人でも多くの人に面白いと思ってもらえるような物語を、一つでも多く創っていきたいと思います。よろしくお願いいたします。
■鈴樹すみれ『貴方の首にくちづけを』
〈あらすじ〉
魔帝の母と人間の父の間に生まれた七人の子供たち。夫を殺された母は、千年後人の世を滅ぼすと宣言していた。そして約束の時が迫り、人を滅ぼすべきか否か見極めよと子らを送り出した。末っ子のアランは雪山で過ごし、助けた娘オリガに恋をする。人間になりたいと母に頼んだ彼は、期日までに思いが通じれば人間になれるが、叶わなかった場合は砂になるという魔術をかけられる。そしてオリガの願いを叶えるため、人の世に戻るが……
〈選評〉
世界観も、主人公家族それぞれのキャラクターもユニーク。冒頭から一気に物語に引き込む強さがある。展開もストレートでわかりやすく、読んでいて楽しいと感じさせる好作品。主人公の一途さに魅力があり、感情移入できると評価する声も多かった。一方、序盤の吸引力に比し、中盤からはやや失速した感がある。わかりやすさの反面、登場人物の感情で片付けられてしまう物語性の弱さを指摘する意見もあった。
〈受賞コメント〉
一次選考に残った時、PCの前で、一人泣きました。
ところが、最終選考で父が泣き、特別賞で妹が号泣。
友達にメールしたら、返信は軒並み泣いていました。賞を頂いてから泣けてないのは私だけです。乗り遅れました。
この、優しい周りの方のお陰で、私は、安心して走り、躓き、また立ち上がり走れます。
特別賞という光栄をいただき、感謝の気持ちで一杯です。
私の紡ぎ続けるちっぽけな夢が、匂いと、手触りと、声と、温度と、風景を伴って、どうか皆様の元へ届きますように。
これからお届けする風景がお気に召しましたら、これに勝る喜びはございません。
※掲載は筆名、タイトルの順です。(順不同、敬称略)
羽鳥ユキ |
「神聖王綺譚」 |
※掲載は、筆名、タイトルの順です(順不同、敬称略)
羽鳥ユキ |
「神聖王綺譚」 |