C★NOVELS大賞を設立して10年という記念の年となった今年も、多数のご応募をいただきました。ありがとうございます。白熱の選考会の末、今年は1作の大賞と、2作の特別賞を選出することとなりました。また第10回を記念して設けた「読者賞」も、読者のみなさまに多数のご応募いただきありがとうございました。編集部内での選考会に、新風を入れることができ、受賞作が決定いたしました。刊行にあたっても新たな試みを考えており、読者の皆さまにお届けできる日を楽しみにしております。今しばらくお待ちいただければと思います。
近年の傾向でありますが、全体として、読みやすい作品が多く、文章としての力は上がってきているように思います。一方、エンターテインメント小説としては物足りなさを感じる作品が多かったのも事実です。「読みやすさ」と「物語性」は相反するものではありません。破綻を恐れるあまりこぢんまりとまとめすぎてはいませんか。あなたは作品を通じて何を読者に楽しんでほしいのでしょうか。展開のおもしろさ? 登場人物同士のかけあいの妙? 世界の謎? 書き手の数だけ答えはあると思います。その自分だけの答えをとことん追究してみてください。エンターテインメントとは、人々を楽しませる娯楽です。ぜひあなたの作品で、我々を楽しませてください。
このC★NOVELS大賞もおかげさまで次は第11回を迎えます。来年からはまた新たな気持ちで作品と向き合っていく所存です。みなさまのご応募お待ちしております。
『歌う峰のアリエス』
筆名:松葉屋なつみ
[あらすじ]
灰色の峰の上、紙飛行機=メールを召還し、スパムを食べ、寄生する「悪いもの」=不正プログラムを取り除く毎日を送る羊たち。青い空の向こう、メールを送る人間たちに思いを馳せながら……。いっぽう、企業への不正アクセスをおこなった疑いで投獄されていた天才ハッカー〈ジュニア〉は、保釈しに来た〈教授〉に、母親の遺したサーバARIESへのハッキングを正式に依頼されて……。
[選評]
天才プログラマーが作成したウィルス撃退プログラムを羊が紙飛行機を食べるというイメージに仮託した独創が素晴らしい。仮想世界が視覚的にも美しく、羊たちのキャラクターも魅力的に描かれていた。いっぽう、現実世界の書き込みの浅さや、二重構造の関連づけの薄さを欠点とする声もあった。候補作中、完成度が最も高く、群を抜いたオリジナリティが大賞にふさわしいと評価された。
[受賞コメント]
このたび思いがけない幸運に恵まれて、栄誉ある賞をいただくことができました。
文章の書き方を教えてくださった先生方、拙い作品を読み続けてくれた友人たち、支えてくれた大切なひと、時間まぎわで持ち込まれた封筒に消印を捺してくれた夜間窓口の郵便局員さん、そして幾多の応募作の中から見付け出してくださった選考者の皆様。どなたが欠けても、この奇跡は起こらなかったと思います。
全ての方々に最大級の感謝を捧げます。本当にありがとうございました。
これからも物語を書き続けてゆくことが、皆様へのご恩返しとなりますように。
『世界融合でウチの会社がブラックになった件について』
筆名:和多月かい
[あらすじ]
ある日唐突に現実と魔法世界が融合し、太平洋上に新大陸が誕生した。やがて異世界との交流が始まり、大手商社総葉商事の新人・藤崎通はこの現れたばかりの新大陸の帝国・アーゼンへ派遣される。異世界の常識に翻弄され、さらに現実世界が魔法による犯罪やテロに晒される??と手に余る事態に困惑しつつもビジネスマンとして必死にがんばる藤崎。一方、アーゼンもある理由から深刻なエネルギー不足に悩まされており……
[選評]
現代日本の問題点をそっくりファンタジー世界に導入したことに賛否が別れた。しかしキャラクター造形や伏線・サイドストーリーの使い方がうまく、現実とファンタジーのバランスもよい。主人公が前向きに成長していく様子がストレートに描かれており、好感が持てる。タイトルにも「読者の引き」的センスが感じられ、総じてレベルが高い作品だった。
[受賞コメント]
編集部からの第一報は、バランスボール教室でびよんびよんと跳ねている最中でしたので、受けることができませんでした。
留守電で編集部の名を聞いた瞬間、頭を過ぎったのは「なにかミスった!」
書類に不備があったとか、CDが割れていたとか、そういうものだと思い込んだのです。
生まれたての子鹿のようにガタガタ震えながら折り返した電話で、「受賞」の一言を聞いた時は、まさしく唖然となりました。
最後に、編集部の皆様、見守ってくれた家族や友人たちに、心からの感謝を。
これから作品を磨き上げるのが楽しみです。
『天の眷族』
筆名:王城夕輝
[あらすじ]
小国「蓋」で政を司るのは、盤戯「天盆」に長けた者。人々は立身を目指して天盆に励み、街にはいつも対局の音が響き渡っていた。食堂を営む小勇と静夫婦には血のつながらぬ13人の子がいたが、その末子・凡天は幼少より天盆に異様な才を示す。隣国との小競り合いに街が揺れ、家族に亀裂が生じる中、幾多の激戦を勝ち抜いた10歳の凡天はついに天上戦の行われる都へ??その時、少年の運命と同時に国の運命もまた大きく動き出していた。
[選評]
「天盆」という架空のゲームの作りこみが素晴らしく、それを軸にしっかりと物語を構築している。予定調和を脱したラストが、鮮やかな印象を残した。盤上ゲームを扱った優れた先行作品に比べるとやや“素直”な作品という見立てもあったが、一気読みさせる勢いや、入っていきやすい設定を買う声が多かった。そうした長所とは別に、作品傾向として従来のC★ノベルスとやや距離があるという意見が出たため、特別賞での受賞となった。
[受賞コメント]
書きたいことを書きたいように書いてしまったあとで、はたして受けいれてくださるところがあるものだろうかと不憫に眺めていたものですから、寛大にも立派な賞をいただけることになり、本当に感謝しております。よかったなあよかったなあ、かわいがってもらうんだぞとなでさすりながら、性懲りなくこれからも引き取ってもらえるかどうかドキドキするものを書いていけたらいいなあとほろ酔い心地に、電王戦を楽しみに待つ春うららです。
※掲載は筆名、タイトルの順です。(順不同、敬称略)
蒼井つぐみ |
帝都浪漫幽奇譚 無限螺旋と無疆胡蝶 |
※掲載は、筆名、タイトルの順です(順不同、敬称略)
きの名虎 |
夢妓楼にいらっしゃい ―ここは色町、桃色仙境の里― |