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覇者の戦塵1945

C★NOVELS

覇者の戦塵1945
硫黄島航空戦線

谷甲州 著

厚木基地に集められた複座式零戦と二機の飛龍。硫黄島上空にて異形の航空隊が織りなす、P61〝ブラックウィドウ〟撃滅の秘策とは?

カバー:佐藤道明
刊行日:2019/3/19
新書判/224ページ/定価:990(10%税込)
ISBN978-412-501399-2


はしゃのせんじん1945
いおうとうこうくうせんせん


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コメント

 以前から、気になっていることがある。
 ベトナム戦争時に大量散布された枯れ葉剤と、その主成分であるダイオキシン類について。解放戦線のひそむ密林を丸裸にして隠れ場所を奪い、同時に田畑の作物を枯死させて解放戦線の支配地域を飢餓に追いこむというものだった。生態系自体を改変しかねない物騒な化学兵器(といっていいと思う)で、状況次第では日本でも使用されていた可能性があるらしい。科学雑誌に論文か記事として掲載されていたように思うのだが、何度も転居をくり返すうちに当時の資料は散逸してしまった。ネットで検索してもベトナム戦争の終結後に、日本で農薬として使用されていた件しか出てこなかった。
 したがって、情報源は示せない。記憶に頼って書くしかないのだが、事実関係はそれほど複雑ではない。米軍が枯れ葉剤の開発に着手したのは、太平洋戦争の末期らしい。ということは、攻撃目標は日本の田園地帯と考えられる。散布開始時期を一九四五年の秋ごろに設定すれば、内地の稲作農業は大打撃を受ける。
 当時の日本は人口密集地に対する焼夷弾攻撃によって、地方都市にいたるまで焦土と化していた。さらに原子爆弾の実戦投入で都市部は壊滅状態におちいっている。数百機ものB29を攻撃圏内に集結させたものの、攻撃目標が存在しない事態になりかねなかったのだ。枯れ葉剤の開発は、予算獲得の見地からも有効だったと思われる。
 非人道的な側面はあるものの、枯れ葉剤は兵器として合理的だった。一九四五年の秋以降に予定されている本土上陸作戦にも、落葉時期を早める枯れ葉剤は有用だろう。ところが日本では毒性の強さから、人体にあたえる悪影響のみが取り沙汰されているように思える。ことに「ベトナムの結合双生児」は近況が報じられることも多く、ご存じの方も多いと思う。不幸にして一人は亡くなられたが、もう一人は手術が成功して元気に暮らしている。日本から来た観光客のおばさんが成長した彼を見かけて「頑張って」と声をかけていた。その様子をテレビで見ていた私は、すごく奇妙な印象を受けた。
 ほんの少し時間軸がずれていたら、おばさんの方が「頑張って」と声をかけられていたかもしれないのに。

〔谷 甲州/2019年2月〕

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