もぐら新章4第十二回

第一章

2(続き)

 丸山が言いにくそうに言葉を絞り出す。
「あらまあ、そうだったの」
 紗由美はさらりと返した。
「芦田さん、真面目な方でしょうから、そういうこともあるかもしれませんね」
 そう言い、微笑む。
 丸山は紗由美の反応に驚き、目を丸くした。
「私も夜の街のことは少し知っていますから。優しくされて、彼女たちに嵌まる男性はたくさん見てきました。芦田さん、溺れちゃったのかもしれませんね」
「いや......その通りです。お恥ずかしい話ですが」
 丸山は渋い表情を覗かせた。
「お店と女の子の名前はわかる?」
「どうするんですか?」
 田辺が訊く。
「調べてみるわ」
 紗由美が言い切る。
「そんなこと、危ないですよ」
 田辺が不安げな顔を見せる。
「そうです。こちらにこれ以上、ご迷惑はかけられません。芦田は私たちが責任をもって──」
 丸山の発言を紗由美が遮った。
「大丈夫。地元に不慣れな人が動き回るより、私たちの方が何かつかめるでしょうし。万が一のことがあっても、私んちには頼もしい人がいるしね」
 そう言い、にっこりと笑う。
「ああ」
 田辺も微笑んで、大きくうなずいた。
 丸山は事情がわからず、きょとんとしている。
「安達さんのダンナさん、沖縄県警の元刑事なんですよ」
 田辺が言う。
「こらこら、ダンナじゃないよ。同居人」
「あ、そうでしたね。すみません」
 田辺が苦笑した。
「そうなんですか」
 丸山も笑う。
「そういうこと。だから、ご心配なく。事件性がありそうなら、うちの人を介して、警察に話を通すから」
「そうしていただけると助かります」
「じゃあ、システムの方は工程表通りによろしくお願いします。芦田さんの捜索は、任せてくれればいいから」
「ありがとうございます」
 深々と頭を下げる丸山を見て、紗由美はうなずいた。

(続く)

もぐら新章4

Synopsisあらすじ

最強のトラブルシューター「もぐら」こと影野竜司の死から十年余。生前の父を知らぬ息子・竜星は沖縄で高校生になっていた。
竜司のかつての戦友・楢山とともに、沖縄や東京の暴力団組織との戦闘を乗り越えてきた竜星。親友の安達真昌とともに切磋琢磨しながら、将来を模索していたが、高校卒業を目前に繰り広げられた死闘によって傷を負った。(もぐら新章『血脈』『波濤』『青嵐』)
傷からの回復に専念しつつ、竜星は大学進学を、真昌は警察官試験の受験を一年延期し、自らの進む道を改めて見つめ直すことにしたが……

Profile著者紹介

1964年兵庫県生まれ。文芸誌編集などを経て、小説家へ転向。「もぐら」シリーズ(小社刊)が120万部を突破した。他の著書に「リンクス」シリーズ、「D1」シリーズ、「ACT」シリーズ、「警視庁公安0課 カミカゼ」シリーズ、『コンダクター』『リターン』『AIO民間刑務所』などがある。

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