もぐら新章4第十回

第一章

2(続き)

「安達さん、すみません。わざわざ来てもらって」
 田辺が頭を下げる。
 田辺は四十手前で、人材派遣部門を新設する際、新たに募集して入社してきた社員だ。前職はシステムエンジニアで、いずれは人材派遣部門のシステムを統括してもらう予定だった。
「芦田さんと連絡が取れなくなったって、どういうこと?」
 紗由美はオフィスに入りながら訊いた。
「そのままです。一週間ほど前から音信不通となって、行方知れずです」
 田辺がついてきて、横で話す。
 紗由美は他のスタッフに会釈した。
「一週間も前の話、なぜ今なの?」
「それは──」
 田辺が口を開いた時、奥の方からタイトなスーツを着た男が駆け寄ってきた。
 紗由美の前で立ち止まった。浅黒く陽に灼けた顔が蒼くなっている様子が見て取れる。
「安達さん! このたびは、弊社の芦田がご迷惑をおかけしてしまい、大変申し訳ございません!」
 深々と頭を下げる。
 彼は、丸山達也。芦田洋介の同僚で、東京のIT企業から長期出張してきているシステムエンジニアだった。
 今回、ゆいまーるの派遣登録者管理システムは、芦田が統括責任者として工程を進めていた。
「詳しい話を聞かせてもらえますか?」
 紗由美が言う。
「はい、もちろんです」
 丸山は大きく首肯した。
「こちらへ」
 田辺が紗由美と丸山を応接ブースに案内する。
 打ち合わせをする時はパーティションで仕切っただけの簡易会議室を使うが、田辺が二人を連れていったのはフロアの最奥にある、ドアで仕切られた部屋だった。
 紗由美は、状況が芳しくないことを感じ取った。
 中へ入り、田辺は応接セットの奥に丸山を、向かいに紗由美を座らせた。
「何か飲みますか?」
 丸山と紗由美を交互に見やる。
「私は大丈夫。丸山さんは?」
「僕も結構です」
「じゃあ、田辺君も」
 紗由美は右横の席を目で指した。田辺は軽く頭を下げ、腰を下ろした。

(続く)

もぐら新章4

Synopsisあらすじ

最強のトラブルシューター「もぐら」こと影野竜司の死から十年余。生前の父を知らぬ息子・竜星は沖縄で高校生になっていた。
竜司のかつての戦友・楢山とともに、沖縄や東京の暴力団組織との戦闘を乗り越えてきた竜星。親友の安達真昌とともに切磋琢磨しながら、将来を模索していたが、高校卒業を目前に繰り広げられた死闘によって傷を負った。(もぐら新章『血脈』『波濤』『青嵐』)
傷からの回復に専念しつつ、竜星は大学進学を、真昌は警察官試験の受験を一年延期し、自らの進む道を改めて見つめ直すことにしたが……

Profile著者紹介

1964年兵庫県生まれ。文芸誌編集などを経て、小説家へ転向。「もぐら」シリーズ(小社刊)が120万部を突破した。他の著書に「リンクス」シリーズ、「D1」シリーズ、「ACT」シリーズ、「警視庁公安0課 カミカゼ」シリーズ、『コンダクター』『リターン』『AIO民間刑務所』などがある。

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