もぐら新章4第九回

第一章

2(続き)

 ゆかりも、昼間の仕事やコールセンター内の人間関係になれるまで苦労した。くじけそうになるたび、紗由美が助け、支えてきた。
 そして今では、紗由美に代わって、フロア主任を任されるまでになった。
 ゆかりはいまだに派手な格好をしているが、それにも理由がある。
 新しく入ってきた夜からの転職組の子に、こんな自分でも責任ある立場にまで上がって働けるということを見せたいのだという。
 また、その格好のおかげで、転職組の子たちからの相談も多い。
 ゆかりはしっかり、紗由美の後継として、コールセンターの中核を担っていた。
「やっぱ、コロナで夜の街は壊滅かあ」
 紗由美が言った。
「ひどい状況みたいです。初めは、売り上げの少ない子が切られてたんですけど、あまりにお客さんがいなくて、トップの子まで出勤日数を減らされて。時短を無視して営業していたお店もずいぶん潰れて、働き口そのものがなくなっているそうです。営業を続けているところでは、過激なサービスを求められたりもするみたいで」
「それはきついね」
 紗由美がため息をつく。
 夜の仕事は、一度落ち始めると際限がない。そして、あまりに深く落ちてしまうと、這い上がるのが難しくなる。
「そろそろ緊急事態宣言が明けるなんて話もあるから、戻りたそうにしている子もいるんだけど、明けてすぐ、以前のように内地とか外国からの観光客が戻ってくるわけでもないし。私としては、せっかく陽の下に戻ったんだから、そのままがんばってほしいなと思ってるんですけど」
 ゆかりが力なく微笑む。
 ゆかりも、夜の街で働く心労を肌身で知っている。それだけに、彼女たちがきつい思いをしないようにしてあげたいという気持ちが強いのだろう。
 エレベーターが十五階で停まる。コールセンターのフロアだ。人材派遣システムの部屋は十七階にある。
 ドアが開き、ゆかりが出ようとする。
「何かあったら、いつでも言ってね。揺れてる子がいたら、私から話してあげてもいいし」
「ありがとうございます。その時は遠慮なくお願いします」
 ゆかりは微笑んで会釈し、エレベーターを降りた。
 紗由美は十七階へ上がった。エレベーターから出るとすぐ、紗由美と共に派遣者管理システムの構築に関わっている田辺一馬(かずま)が駆け寄ってきた。

(続く)

もぐら新章4

Synopsisあらすじ

最強のトラブルシューター「もぐら」こと影野竜司の死から十年余。生前の父を知らぬ息子・竜星は沖縄で高校生になっていた。
竜司のかつての戦友・楢山とともに、沖縄や東京の暴力団組織との戦闘を乗り越えてきた竜星。親友の安達真昌とともに切磋琢磨しながら、将来を模索していたが、高校卒業を目前に繰り広げられた死闘によって傷を負った。(もぐら新章『血脈』『波濤』『青嵐』)
傷からの回復に専念しつつ、竜星は大学進学を、真昌は警察官試験の受験を一年延期し、自らの進む道を改めて見つめ直すことにしたが……

Profile著者紹介

1964年兵庫県生まれ。文芸誌編集などを経て、小説家へ転向。「もぐら」シリーズ(小社刊)が120万部を突破した。他の著書に「リンクス」シリーズ、「D1」シリーズ、「ACT」シリーズ、「警視庁公安0課 カミカゼ」シリーズ、『コンダクター』『リターン』『AIO民間刑務所』などがある。

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