もぐら新章4第七回

第一章

 沖縄都市モノレール線、通称ゆいレールのおもろまち駅西側には、那覇新都心が広がっている。
 ここは太平洋戦争当時、シュガーローフの戦いという激しい地上戦が行なわれた場所で、戦後は米軍の住宅地として接収されていた。
 一九七三年より返還が開始され、一九八七年に全面返還が実現した後は、不発弾の処理や遺骨収集を経て、造成され、再開発が進んでいった。
 立地的に那覇空港の制限表面区域外にあたるため、超高層ビルが次々と建てられ、大型ショッピングモールや商業施設も進出し、今では公園や娯楽施設も整備されて、国際通りをしのぐ沖縄の中心地となっている。
 安達紗由美は、新都心公園東側にあるガラス張りの高層ビルに自家用の軽自動車で乗り付けた。
 このビルの十五階から十七階の三フロアに、紗由美が勤める〈株式会社ゆいまーる〉がある。
 ゆいまーるは、沖縄の方言で〝助け合い〟や〝共同作業〟といった絆を意味する言葉だ。コールセンターを主業としている会社にはぴったりの社名だった。
 以前は国際通りに近い場所にある小さなビルにオフィスを置いていたが、人材派遣事業を始めるにあたって、新都心の今のビルに移転した。
 紗由美は百台は停められるビルの駐車場に車を置き、小走りでビル内へ入っていった。
 エレベーターホールでエレベーターを待っていると、後ろから声をかけられた。
「紗由美さん!」
 振り向くと、派手な巻き髪のタイトなスーツを着た女性が立っていた。
「あら、ゆかりちゃん。久しぶり」
 笑顔を見せる。
 知花(ちばな)ゆかりだった。歳は紗由美より一回り以上下だが、長い間、紗由美の下で努力し、今は紗由美に代わって、フロア主任を務めるまでに成長している。
 紗由美はゆかりとエレベーターに乗り込んだ。
「コールセンターの方はどう?」
 紗由美が訊く。
「私みたいな新人が増えて、ちょっと大変です」
 ゆかりが苦笑する。
 ゆかりは、夜の街で働いていたシングルマザーだった。七年前、ゆかりが三十路を迎えようとしていた頃、夜の街勤めに限界を感じ、ゆいまーるに面接に来た。
 当初、社長や役員は難色を示したが、紗由美はそうした女性たちの積極的な採用を進言した。
 夜の街で接客業に従事していた女性たちは、基本的なコミュニケーション能力は鍛えられていて、面倒くさい相手とのやりとりも慣れている。
 また、コールセンターの人手不足が叫ばれる中、人材を確保するための一つの良策となり得るとも思った。
 はたして、紗由美の読みは当たった。

(続く)

もぐら新章4

Synopsisあらすじ

最強のトラブルシューター「もぐら」こと影野竜司の死から十年余。生前の父を知らぬ息子・竜星は沖縄で高校生になっていた。
竜司のかつての戦友・楢山とともに、沖縄や東京の暴力団組織との戦闘を乗り越えてきた竜星。親友の安達真昌とともに切磋琢磨しながら、将来を模索していたが、高校卒業を目前に繰り広げられた死闘によって傷を負った。(もぐら新章『血脈』『波濤』『青嵐』)
傷からの回復に専念しつつ、竜星は大学進学を、真昌は警察官試験の受験を一年延期し、自らの進む道を改めて見つめ直すことにしたが……

Profile著者紹介

1964年兵庫県生まれ。文芸誌編集などを経て、小説家へ転向。「もぐら」シリーズ(小社刊)が120万部を突破した。他の著書に「リンクス」シリーズ、「D1」シリーズ、「ACT」シリーズ、「警視庁公安0課 カミカゼ」シリーズ、『コンダクター』『リターン』『AIO民間刑務所』などがある。

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