もぐら新章4第十一回

第一章

2(続き)

 紗由美が丸山に向き直る。
「芦田さん、どうされたんですか? 一週間前のことから、お聞かせ願えますか?」
「はい、実は......」
 丸山が語り始めた。
「一週間前、私に一本のメッセージがありました。今から東京へ帰ると。あまりに急だったので、急いで芦田の部屋に行ったんですが、もういなくて。空港に向かったと思って、行ってみたんですが、そこにもいませんで。それから何度も連絡を入れたんですが、電話にも出ず、メッセージも既読にならずでして」
 丸山は時々言葉を詰まらせながら、状況を話す。
「その後、田辺さんに事情を伝えました。幸い、ゆいまーる様の作業は、工程表通りに進んでいましたので、東京の本社とも相談して、緊急事態宣言下でもありますので、作業に支障のない一週間内に、芦田を探し出して、処理しようということになりました。ですが、この一週間、どこを探しても見つかりませんで......」
「それで、私にも連絡が来たということね」
 紗由美が丸山を見つめる。
 と、田辺が横から割って入った。
「僕が報告は後でいいと言ったせいもあるんです。事情がわからないうちに大騒ぎしてもと思いまして。すみません」
「報告が遅れたのは、いいとは言わないけど、仕方ないわね。大ごとにしたくないという気持ちはわかる」
 紗由美は微笑み、丸山に顔を向けた。
「進捗はどのくらい遅れます?」
「そちらは工程表通りに進めるつもりです。私が芦田に代わって現場を仕切ります。流れはわかっていますので。スタッフも東京から呼んで、増員体制で臨みますので」
「ありがとうございます。では、システムの方はその予定でお願いします」
 紗由美が言うと、丸山と田辺は安堵したように息をつき、こわばった頬を緩めた。
「それより、芦田さんに何があったか、気になるわね。丸山さん、何か心当たりはないんですか?」
 紗由美が訊いた。
 丸山はちらっと田辺を見た。そして、少しうつむいて間を取り、やおら顔を上げた。
「実は......ここだけの話にしておいてほしいんですが」
 丸山は前置きをした。
「芦田、このところ、ある女性に入れ込んでいまして......」
「どんな人?」
「......デリヘル嬢です」

(続く)

もぐら新章4

Synopsisあらすじ

最強のトラブルシューター「もぐら」こと影野竜司の死から十年余。生前の父を知らぬ息子・竜星は沖縄で高校生になっていた。
竜司のかつての戦友・楢山とともに、沖縄や東京の暴力団組織との戦闘を乗り越えてきた竜星。親友の安達真昌とともに切磋琢磨しながら、将来を模索していたが、高校卒業を目前に繰り広げられた死闘によって傷を負った。(もぐら新章『血脈』『波濤』『青嵐』)
傷からの回復に専念しつつ、竜星は大学進学を、真昌は警察官試験の受験を一年延期し、自らの進む道を改めて見つめ直すことにしたが……

Profile著者紹介

1964年兵庫県生まれ。文芸誌編集などを経て、小説家へ転向。「もぐら」シリーズ(小社刊)が120万部を突破した。他の著書に「リンクス」シリーズ、「D1」シリーズ、「ACT」シリーズ、「警視庁公安0課 カミカゼ」シリーズ、『コンダクター』『リターン』『AIO民間刑務所』などがある。

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