御厨貴 編著
2016年7月のNHK「天皇退位スクープ」、翌月の「天皇ビデオメッセージ」から3年余。すでに新天皇が即位し、元号も「令和」となった。当初、そもそも憲法に定められていない「退位」は可能なのか、天皇の「意志」によって制度が変えられることがあってよいのか、と政府・識者が困惑したにもかかわらず、国民世論の支持により、一代限りの退位を可能とする特例法が成立した過程については記憶に新しい。しかし、たとえば「象徴」とは何なのか、天皇の「公務」とは何か、などについて、新たなコンセンサスが生まれたわけではなく、女性天皇を容認するか否かについても、棚上げになったままである。本書は、この3年間に、誰が、どんなことを言ってきたのか、その論点を整理し、積み残した課題を提示するものである。今回の有識者会議(天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議)の座長代理を務めた編者が、3年分の雑誌論文、インタビュー、新聞記事などから、自身の主張とは相容れないものも含めて選んだものを論点ごとにまとめ、それぞれについてコメントを付す。そこには、イデオロギーなき時代の混沌とした思想状況も浮かび上がる。