2022 03/31
編集部だより

20年ぶりのタイムカプセル

2002年の初版と2022年の11刷

今を去ること20年あまり。新卒で入社した私は中公新書編集部に配属されました。編集部には朝永振一郎の最後の弟子で『ゾウの時間 ネズミの時間』を編集したという伝説の人がいたり、今も私のボキャブラリーにない「お原稿、頂戴いたしました」という表現を耳にしたり、清貧な学生には想像もつかなかった1000円、1500円、2000円......の昼食をご一緒したりと、毎日が驚くことばかり。

そんな新人への教育の一環として、編集部の先輩たちが原稿をそれぞれ一本ずつ私に譲り、一緒に担当してくれる、ということに。そのなかの一冊が黒川祐次著『物語 ウクライナの歴史』だったのです。

中公新書の「物語各国史」シリーズには、主要な国はもとより、近年は『物語 東ドイツの歴史』『物語 パリの歴史』、さらには『物語 スコットランドの歴史』(近刊)など、都市や地域、すでに消滅した国もラインナップに加わっています。編集部でも世界中を幅広く網羅したいと考えていますが、2000年前後の当時、独立からまだ間もない熱気や穀倉地帯としての重要性、大国の潜在力を考慮しても、よく企画できたものだと先輩たちの眼力に感心します。

刊行当初はなかなか重版に至らなかったのですが、2014年のクリミア併合、さらにこのたびの戦争と、ウクライナが危機に陥るたびに版を重ね、累計10万部。きっかけがきっかけだけに、著者の黒川さんとも後ろめたさを嘆きあい、けれども結果的に少しでもウクライナへの関心が高まることになればと自分に言い聞かせています。

20年ぶりに読み返してみると......。最近になって読者から誤植のご指摘をいただくなど、今も変わらない詰めの甘さを反省しつつ、何だかタイムカプセルを開けたような気分になるのでした。(一)