- 2017 01/25
- 私の好きな中公新書3冊
苅谷剛彦『教育と平等 大衆教育社会はいかに生成したか』
稲葉陽二『ソーシャル・キャピタル入門 孤立から絆へ』
筒井淳也『仕事と家族 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』
私たちは人として「社会」を形成して、その中で生きている。「社会」を扱う学問を社会科学といい、経済学や政治学、私の専門とする社会学といった学問がその中に含まれる。社会科学は自然科学のように実験室で再現できるような現象を扱いにくいが、独自の科学的基準で、「社会」に様々な法則や独自の特徴があることを明らかにしてきた。
その中でも特に注目すべきなのが、意図せざる結果だ。一人ひとりはよかれと思って行動していても、それを全体として見た場合、まったく逆の帰結が導かれる場合がある。社会現象にそのような「クセ」があることを知っておくのは、社会が複雑化している現在においてもっとも求められていることだと思う。
『教育と平等』は、巷で語られがちな「詰め込み教育をやめれば個性が伸ばせる」とか「中央集権をやめれば教育の分権化が進む」といった言説に対して、戦後日本の教育の歴史を遡り、それが「平等な教育」という神話であることを明らかにする。そこに見られるのは、「システム」としか言い表しようのないこの社会の結びつき方だ。
『ソーシャル・キャピタル入門』は、「社会関係資本」と訳されるソーシャル・キャピタルが持つ人と人とのつながりの効果についての分かりやすい概説書だ。社会関係資本は、個人間のコネやツテのようなものと社会の規範や他者への信頼といったものの2つに分けられるのだが、後者のような信頼関係の存在が、社会全体によい効果をもたらすといったこともまた、この「社会」の特徴である。
『仕事と家族』では、ときに未婚化が進んでいる原因のひとつとされる女性の就労が、むしろ結婚・出産のための条件であることをデータから明らかにしている。このように複雑な社会関係を解きほぐして理解することは、「意図せざる結果」を引き起こす短絡的な解決を避けるためにも必要なのである。