- 2017 10/05
- 私の好きな中公新書3冊
林健太郎『ワイマル共和国 ヒトラーを出現させたもの』
阿部謹也『刑吏の社会史 中世ヨーロッパの庶民生活』
マーク・マゾワー『バルカン―「ヨーロッパの火薬庫」の歴史』
中公新書の魅力って何だろう。それはやはり、コンパクトなサイズに、第一級の知性が詰め込まれていることだろう。学生時代の読書は、一生の宝だ。授業の合間に講義室で、空き時間に喫茶店の片隅で、寝る前に布団の中で、いろんなところで取り出して、続きを読むことができる。学生のお財布でも、衝動買いしてしまえる価格設定。生協の書店に並んだ中公新書は、様々な学問の世界に向かって開かれた、きらきら光る窓だった。
3冊を選ぶのは至難の業で、他の方があげられたものは外すことにした。久々に手に取って、1963年初版であることに驚愕したのは、『ワイマル共和国 ヒトラーを出現させたもの』。今もって、私にとっては歴史叙述かくあるべし、という王道を示したものだ。史実を確定し、「学者として守らねばならぬ準則」を守りつつ、自らの価値観を明白に主張する。歴史を学ぶことを通じて、今、この社会を、どうやってより良く生きるかを自らに問い続ける。まえがきに引用された、「すべての歴史は現在の生の関心から生まれる」(クローチェ)、「歴史を書くことは信念の行為である」(ビアド)という言葉が重たい。
私の学生時代は、社会史ブームの波が起こっていた。その中で『刑吏の社会史 中世ヨーロッパの庶民生活』。近世の訪れが、人々の意識にどのような変貌をもたらしたかの叙述は、世界の多くの地域が近代化の苦しみの中にいる今、改めて新しい。キリスト教的ヨーロッパに対する、日本人研究者の立ち位置というものについても考えさせられる。
出たばかりの『バルカン―「ヨーロッパの火薬庫」の歴史』。「ヨーロッパの火薬庫」が括弧に入っているところが味噌である。バルカンを特別視するのではなく、帝国、宗教、民族、国民国家、近代化、グローバル化、という世界中に共通に訪れている現象を考える場として、バルカンを設定している。普遍的な視点を持つことによって、特殊がよりよく理解できる。バルカンと同様の地政学的位置にある東の朝鮮半島を考える一助にもなる。