2017 09/22
私の好きな中公新書3冊

今こそ学びたい日本史のツボ/伊東潤

呉座勇一『応仁の乱 戦国時代を生んだ大乱』
亀田俊和『観応の擾乱 室町幕府を二つに裂いた足利尊氏・直義兄弟の戦い』
和田裕弘『織田信長の家臣団―派閥と人間関係』

『応仁の乱』が売れに売れたのは、まだ記憶に新しいと思うが、たまたまではないのは、それに続くように出された『観応の擾乱』が、前掲書に迫る勢いで売れていることからも分かると思う。

その理由は、読者の日本史に対する興味が深化し、これまでのように戦国と幕末だけでは飽き足らなくなったからだろう。また南北朝から室町時代にかけても、「知ってるつもり」で、実はほとんど知らなかったという人が多かったからに違いない。

ただし、それだけで本は売れるものではない。初速がよくても内容がよくないと、発売二カ月目ぐらいから、売り上げはガクンと落ちるものだ。

ではこの二冊は、どうしてこれほど売れているのか。まず「売る」ためのツボを押さえている。何を措いても「読みやすい」のだ。なぜ「読みやすい」のかというと、二冊とも「小説のように面白く書かれている」「内容を深化させすぎない」「構成がうまい」などの点が挙げられるだろう。

一方、戦国勢も負けてはいない。私が最近、注目したのは『織田信長の家臣団―派閥と人間関係』である。本書が斬新なのは、信長以前の尾張の国から説き起こすことで、信長軍団のルーツに迫り、さらに信長が勢力を拡大させながら、いかに最強軍団を形成していったかの過程を詳細に追っている点だ。また最終章では、信長配下の軍団ごとに派閥と成長を描くという整理の見事さから、極めて読みやすい構成となっている。

実は私も歴史系新書を何冊か書いている。また2017年の9月と11月にも、戦国と幕末を題材に取った二作品を出す。中公新書の上記三冊をじっくりと読み込み、売れる新書の勘所を摑んでから書いたので、万全の態勢で臨むことができた。

秋の夜長は、歴史新書を読みながら日本酒を飲み、大いに肝臓を鍛えていただきたい。

伊東潤(いとう・じゅん)

1960年、神奈川県横浜市生まれ。早稲田大学卒業。外資系企業に勤務後、2007年に『武田家滅亡』でメジャーデビュー。『国を蹴った男』で吉川英治文学新人賞、『黒南風の海―加藤清正「文禄・慶弔の役」異聞』で第1回本屋が選ぶ時代小説大賞、『義烈千秋 天狗党西へ』で歴史時代作家クラブ賞(作品賞)、『巨鯨の海』で第4回山田風太郎賞と第1回高校生直木賞、『峠越え』で第20回中山義秀文学賞を受賞。『城を噛ませた男』『国を蹴った男』『巨鯨の海』『王になろうとした男』『天下人の茶』で5度、直木賞候補となる。近著に『走狗』『城をひとつ』『悪左府の女』などがある。歴史新書の著書も多く、最新刊に『北条氏康 関東に王道楽土を築いた男』(共著 PHP新書)、11月に『幕末雄藩列伝』(角川新書)を刊行予定。