2020 07/14
私の好きな中公新書3冊

自由と平和を願い、考えるための3冊 /和田彩花

佐々木健一『美学への招待 増補版』
山本浩貴『現代美術史 欧米、日本、トランスナショナル』
松元雅和『平和主義とは何か 政治哲学で考える戦争と平和』

初めて新書を読んだのは、高校3年の頃だったと思う。高校入学と同時に「マネとモダン・パリ」という展覧会でマネの絵画、特に黒い絵の具に魅せられ美術館に通うようになり、美術史と出会った。作品をより深く知りたくて、辞書を片手に専門用語の多い美術本を一生懸命に読んでいた。そんなとき、高校の先生が高階秀爾さんの『近代絵画史』(上・下)を教えてくれた。本書は、画家の生涯や芸術的立ち位置、作品の紹介、当時の社会背景や批評などから近代絵画史を追っていく。画家一人につき割かれる頁はコンパクトであるが、多数の視点から要所がおさえられており、また専門書よりも一般向けの言葉で記された本書を通して、学びの楽しさを知ることとなった。あれから、気軽に手に取れる「専門書の入り口」という立ち位置で新書は私の日常の一部になった。

現在、音楽活動のなかで言葉とその発声方法から変化していく意味の表現を模索している。これは身体的な感覚をもつ行為だと感じる。しかし、高校生の頃から関心を持ち、大学、大学院を通して専門的に学んだ美術史は思考のなかでこそ感じられる楽しさだ。どちらの経験も自分にとって欠かせないものであり、表現に行き詰りを感じては学びで自分をリセットするように本を読んでいる。

今回、「私の好きな中公新書3冊」で改めて新書に向き合う機会をいただいた。タイトルと数行の解説だけで、読み進める中での発見と学びの楽しさが想起させられる。自分が触れてこなかった分野のものだって触れたくて堪らない。今回は、今まさに触れたくて堪らない3冊を選んでみた。

『美学への招待』は、美術、芸術とは何か?を理解する機会を与えてくれる美学の入門書。近代の時代背景や感性学との関わり、近代美学の主題を出発点に、20世紀の前衛美術が「美しさ」を否定し、多様な芸術のあり方が可能になる世界で美の本質が探られる。私たちが日常で経験する事例を引き合いに美学に触れていく本書は、優しく思考を導いてくれる。表現の自由についての議論が幾度となく訪れる現代において、本書を手がかりに芸術とは何か?をそれぞれが問い、より良い思考を模索することが必要かもしれない。

『現代美術史』は、「芸術と社会」をテーマに、欧米、日本、トランスナショナルの3部から現代美術の実践を追う。「現代美術(contemporary art)という言葉に明確な定義はありません」と冒頭で記されるように、芸術の実践と当時の時代背景や社会問題を追うことで多種多様な主題と手法が浮き彫りになる。先述した『美学への招待』で手がかりとなる思考を学び、本書によってその実践を知ることができるだろう。また、3部のトランスナショナルな美術史を読んでショックを受けた。自分の美術への関心が主に西洋の近現代であることも手伝って、美術に接するとき、無意識に西洋中心主義の態度になっていたかもしれないと気づかされたのだ。社会と密接な関係を持つ現代美術だからこそ、広い視野でいることをより意識していきたいと感じた。

平和を心から願っているので『平和主義とは何か』について触れたい。おそらく、自分は平和主義者なのだろうと想定しながら本書を読み進めた。しかし、冒頭で平和主義を考える際に重要な点として「戦争よりも平和を愛好することをもって、平和主義の定義であるとするわけにはいかない」と記されており、自分が平和主義でないこと、平和について十分な思考を持っていないことに気づかされた。各章の見出しには「愛する人が襲われたら、戦争の殺人は許されるか、戦争はコストに見合うか」などの言葉が続き、わかりやすい例え話や歴史を交えながら、政治哲学から戦争と平和について考察される。自分に身近な問題を想像し、自分に置き換えながら読み進めることができると同時に、思想と実践があっての平和主義であることを認識させられる。心から願っている平和であるからこそ、平和への思考を始めてみようと思った。

和田彩花(わだ・あやか)

1994年8月1日生まれ。群馬県出身。アイドル。
2009年4月アイドルグループ「スマイレージ」(後に「アンジュルム」に改名)の初期メンバーに選出。リーダーに就任。2010年5月「夢見る15歳」でメジャーデビューを果たし、同年「第52回日本レコード大賞」最優秀新人賞を受賞。2019年6月18日をもって、アンジュルム、およびHello! Projectを卒業。アイドル活動を続ける傍ら、大学院でも学んだ美術にも強い関心を寄せる。
特技は美術について話すこと。特に好きな画家は、エドゥアール・マネ。好きな作品は《菫の花束をつけたベルト・モリゾ》。特に好きな(得意な)美術の分野は、西洋近代絵画、現代美術、仏像。趣味は美術に触れること。