2017 02/24
私の好きな中公新書3冊

わたしの中の古典/内田麻理香

稲垣佳世子/波多野誼余夫『人はいかに学ぶか 日常的認知の世界』
木下是雄『理科系の作文技術』
梅棹忠夫/湯川秀樹『人間にとって科学とはなにか』(現在は中公クラシックス)

こんにち、新書の位置づけが変化しているが、私は不要不急でありながら、何度読み返しても新たな発見がある新書が欲しい。

『人はいかに学ぶか』は、中学高校の校長が勧めた本だ。中学生だった私は夢中になって読み、ボロボロにした。今、手元にあるものは二代目だが、こちらもあちこちにドッグイヤーが付き、マーカーが引かれ、惨憺たるありさまだ。この本は学びとは何か、学ぶことの意義は、を説く。私が学問に取り憑かれ、その魅力を伝えたいと思う原点はこの本にあるのだろう。

『理科系の作文技術』は、物書きを生業とする私にとってありがたい書籍である。理科系の、と銘打っているが万人に通じる。タイトルからは文章のテクニックだけを教授する内容かと思わされるが、そうではない。文章を書く前の下準備、講演に関する助言など、端的ながらも分厚い解説がなされている。

『人間にとって科学とはなにか』は、日本の科学界のヒーロー、湯川秀樹と博学で名高い梅棹忠夫の対談だ。科学の方法論は説得力があり強力である。科学好きは、おおっぴらに科学万能論を唱えなくても、知らず知らずのうちにその考えを体得してしまう。私もそのひとりだ。しかし、この本は科学との適切な距離感を持つことを教えてくれる。湯川は「まとまりの悪い対談」というが、それこそが本書の魅力である。

近頃、学問に関して、役に立つ/役に立たない、という議論がかまびすしい。しかし、不要不急のように見えながら、いまの私の核をつくっているのはこの三冊だ。そして、自分の中で古典に位置づけられている。

内田麻理香(うちだ・まりか)

文筆家。サイエンスの魅力を伝えるべく、各種媒体で旺盛な活動を展開中。著書に『カソウケン(家庭科学総合研究所)へようこそ』(講談社)、『科学との正しい付き合い方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『面白すぎる天才科学者たち』 (講談社+α文庫)などがある。