2017 01/16
私の好きな中公新書3冊

歴史の書き方/大澤聡

山室信一『キメラ―満洲国の肖像 増補版』
下斗米伸夫『アジア冷戦史』
奥野健男『日本文学史 近代から現代へ』

中公新書の得意分野というか支柱のひとつに「歴史」があることは衆目の一致するところ。下位カテゴリとして「評伝」を加えてみてもいい。だからだろう、新書としては規格外に分厚い作品が多数含まれるレーベルでもある。コスパが異様にいい。関心がひろがるたび、導入としてそのつどお世話になってきたわけだけれど、ここでは僕が大学院生だったころ読んだ歴史方面のタイトルに限定し、印象に残る3点を選出した。

「現実に起きた事件の様子を述べようとすれば、物語以外の形式はとりえない」(ヘイドン・ホワイト)といった「歴史=物語」図式はポストモダニストたちに指摘されるまでもなく、多くのひとが直感的に了解している。この3点はどれも時系列をおって事象が緻密に整理されていくから参考書的に"使える"。と同時に、独自のストーリーやフレームを設営してそこから過去をのぞき込むという形式それじたいが、うまくやれば批評的でありうることを教えてくれる。

大澤聡(おおさわ・さとし)

1978年生まれ。批評家、近畿大学文芸学部准教授。専門はメディア史。著書に『批評メディア論』(岩波書店)。編著に『三木清教養論集』(講談社文芸文庫)など。