2022 05/19
私の好きな中公新書3冊

すべての知識はつながっている/鯵坂もっちょ

いやしかし、困ったことになった。そりゃあ私も人並みに新書を読むけれども、読んだ上で「中公新書だからどうこう」「やっぱり中公新書はこれこれこうだな」などといった感想は抱いたことがない。
新書を読んでその内容が面白かったら、「内容が面白かったことであるなあ」と思うだけである。それがどの出版社なのかということは意識したことがない。
たぶん、私がもっとたくさん新書を読んでいれば、ブランドごとの傾向も次第に見えてくるのであろう。ただ魚を食べてても「魚だなあ」としか思わないけど、たくさん食べることによりだんだん産地がわかるようになってくる、みたいな。
つまり「出版社を意識したことがない」というのは単純に私の読書量がぜんぜん足りていないことの証左でしかない。
だから後から知ったことなのだが、中公新書というのはどうやら「歴史」関連に強いみたいなのだ。
ところが私の興味といえばほとんど科学の分野にある。なのでお気に入りの中公新書を3冊紹介してください、はなかなか困った事態だったのである。
とはいえ、そんな私の本棚にも中公新書の深緑色はいくつかあったが、しかしせっかくの機会なので新たに3冊見繕うことにした。
どうせなら普段あんまり触れない分野がいい、と思って選んだのが上記の3冊だ。

なかでも『電車の運転』は特によい。人生において鉄道関係の道を全く通ってこなかった私にとっては知らない知識が100%であった。だからよかった。
直線と曲線の線路の境界に設けられる緩和曲線には3次曲線が使われているらしい。クロソイドじゃないのはなんでだろう? 計算しやすいからかな。
『ブラックホール』では、「宇宙の中に物理法則に支配されない領域(特異点)があることを証明したホーキングにローマ教皇庁がメダルを授与した」というエピソードが印象に残った。つまり神の存在証明というわけだ。もちろん科学はその神を殺す(人智の及ばない範囲を狭める)方向にぐんぐん進んでいくわけで、ローマ教皇庁の滑稽さが際立つ。
『人類の起源』は大変にエキサイティングであった。この本における次世代シークエンサのように「新たな技術が見つかったことによりその分野すべての研究が大幅に進歩する」ということは数学でもたまにある。ロマンだと思う。
そういえば、『ブラックホール』に登場する相対性理論の説明にはよく電車が使われるし、人類はその進化の果てにブラックホールを見つけたり、電車を運転するようになったともいえる。すべての知識はつながっている。そしてそのつながりは多ければ多いほどよい。
そのつながりを増やすのに、刊行点数2000点を超える中公新書がうってつけであることは言うまでもない。

鯵坂もっちょ(あじさか・もっちょ)

数学ライター&ブロガー。自ら「数学のファン」と名乗り、その魅力を自らのブログ「アジマティクス」(https://www.ajimatics.com/)や書籍、大規模数学イベント「ロマンティック数学ナイト」などで、バラエティ豊かに語りつくす。共著に『笑う数学』『笑う数学 √4』、最新刊に『つれづれなる数学日記』(いずれもKADOKAWA刊)。