- 2019 08/13
- 私の好きな中公新書3冊
門脇禎二『采女(うねめ) 献上された豪族の娘たち』
丸山裕美子『正倉院文書の世界 よみがえる天平の時代』
美川圭『公卿会議―論戦する宮廷貴族たち』
古代史との関わりは、幼い頃に遡る。両親の年賀の挨拶回りに従って、古代史学者・門脇禎二先生のお宅にお邪魔した体験が、私と古代史との出会いの始まりだ。大人の新年の挨拶はそのまま酒宴になだれ込み、退屈した私は先生のお仕事場の本を読ませて頂くのが常だった。とはいえ幼い子どもだけに、難しい論集など読めるはずがない。門脇先生が監修に関わっていらした歴史マンガ、はたまた写真がたくさん載った図録が私の遊び友達で、大人たちの交わす歴史談義がそのBGMだった。
それだけに門脇先生の書かれた『采女』を紐解くと、私はいつも懐かしい先生とお目にかかれたようで嬉しくなる。名前だけは知られながら、その実、正しい理解があまりされていない采女。彼女たちに向ける筆者のまなざしはどこまでも優しく、それがまた在りし日の先生のお姿を思い出させる。
『正倉院文書の世界』はこれまたイメージだけが先行しがちな奈良時代の姿を、ありありと伝えてくれる一冊だ。文書と聞くだけで「難しそう」と腰が引けてしまう方にこそ、ぜひお読みいただきたい。私は機会があるたび、「奈良時代って面白いよ!」と声を大にして叫んでいるのだが、なぜ奈良時代は面白いのかという秘密のすべてがここにはある。
歴史とは往々にして雰囲気重視で捉えられ、その実像がうまく理解されないことが多い。そんな中で平安時代以降の宮廷貴族なぞは特に、「遊んでばかり」「仕事していない」というイメージが常に付きまとう気の毒な存在だが、そんな読者の概念をがらっと覆してくれるのが『公卿会議』だ。貴族観――ひいては平安時代観が変わる驚きをお楽しみいただきたい。
分け入れば分け入るほど歴史の森は奥深く、様々な美しい姿を示してくれる。その入り口に立つ案内板こそ最先端の研究を読者に届けてくれる新書であり、より深い知識の森へと誘ってくれる羅針盤なのだ。