2018 04/05
私の好きな中公新書3冊

写真や図表も魅力のうち/永田夏来

塚谷裕一『カラー版 スキマの植物図鑑』
武田尚子『チョコレートの世界史 近代ヨーロッパが磨き上げた褐色の宝石』
岡本亮輔『聖地巡礼 世界遺産からアニメの舞台まで』

中公新書といえば、野崎昭弘『詭弁論理学』や山岸俊男『安心社会から信頼社会へ』などの名著がまず浮かぶ。だが、カラー写真や図表が豊富な最近の著作も私にとっては同じように魅力的だ。

『カラー版 スキマの植物図鑑』は、アスファルトなどの「スキマ」に自生している植物だけを集めた図鑑である。読むだけで十分楽しめる充実のフルカラーなのだが、ここは本書を携えての散歩をお勧めしたい。知り尽くしているはずの場所であっても、よく見ると思わぬ「スキマ」に植物が生えている。それをじっくり眺めて写真と比べ、名前や生態を確認するのだ。単純な作業なのだが、発見と理解の喜びに満ちていて意外にハマってしまう。観察に夢中になって歩くのがおろそかになるほどである。

『チョコレートの世界史』は、マヤ文明やアステカ王国、三角貿易、宗教戦争、大量生産・大量消費といった世界史的なトピックについてチョコレートを軸に論じ切っている。当時の広告や絵画が豊富に引用されているのに加えて製法や味わいに関する記述が分厚く、歴史を扱っているにもかかわらず大変おいしそうな本である。どうしても我慢できなくなって、読了後には本書に登場するチョコレート製品を買いに走ってしまった。

『聖地巡礼』は、フランスを出発し国境を越えてはるかスペインの大西洋岸までをめざすサンティアゴ巡礼や、アニメ『らき☆すた』の舞台となりファンが巡礼することでも有名になった鷲宮神社(埼玉県久喜市)で行われる土師祭などを、実際に訪れて調査分析した成果をまとめた力作だ。さりげなく用いられているスナップ写真も現地の状況をよくとらえていて、魅力のひとつになっている。宗教が力を失った現代社会では、場所にまつわる物語や記憶の共有によって聖地化が生じていると本書はいう。巡礼される聖地は宗教的な信仰とは必ずしも結びつかないという発見を踏まえれば、人がこぞって集まる人気スポットやイベントなどへの考え方が変わるだろう。

永田夏来(ながた・なつき)

1973年長崎県出身。2004年に早稲田大学で博士(人間科学)を取得。現職は兵庫教育大学大学院学校教育研究科講師。専門は家族社会学。著書に『生涯未婚時代』(イースト新書)、共著に『入門 家族社会学』(新泉社)、『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』(ミネルヴァ書房)などがある。