- 2017 11/06
- 私の好きな中公新書3冊
佐藤俊樹『不平等社会日本 さよなら総中流』
山岸俊男『安心社会から信頼社会へ 日本型システムの行方』
松谷明彦/藤正巖『人口減少社会の設計 幸福な未来への経済学』
新書の役割はワンテーマで手軽に専門的な知識を提供することにあるが、中公新書は来るべき時代を見越して先取りしたものが少なくない。とくに2000年代以降の社会をいち早く予見し、警鐘を鳴らしてきた3冊は印象深い。
『不平等社会日本』は、2000年6月刊行。当時、1990年代後半からの規制緩和や金融自由化、新興株式市場の登場などで、経済的な"勝ち負け"がはっきりする流れが見えつつあった。「これは格差が広がる時代になる」と思い、私も格差に関わる取材を始めていた。そんな時期に刊行された本書は、学歴と所属する職業的社会階層(ホワイトカラー、ブルーカラー)による世代間の階層固定化がすでに進んでいることを指摘。一足先に格差の広がりを予見しており、非常に驚いたのを憶えている。
『安心社会から信頼社会へ』は、1999年6月刊行。リストラや転職などで集団主義的な日本型システムが90年代以降に崩れはじめた。制度の面でも、事前に厳しい審査をする従来型から事後のチェックで厳しくする欧米式へ次第に変化。そうした動向を踏まえ、安心よりもどう信頼をつくるかという社会になると指摘した。ゲーム理論や多様な知性を評価する多重知能など、さまざまな視点を用いて社会の変化を捉えた点もおもしろかった。
『人口減少社会の設計』は、2002年6月刊行。当時語られていた社会問題といえば、バブル後の不良債権処理をめぐる公金の投入の是非などが中心で、人口減少問題が政治議題に乗ることはなかった。そんな折りに本書を読んだときの驚きは大きかった。著者らは人口減少を居住空間が増えるなど比較的前向きに記していたが、経済は継続的なマイナス成長になると指摘していたからだ。不良債権問題などどうでもいいから人口問題に向き合わねばと痛感し、自分の仕事でプランにもしたが、当時の雑誌ではほとんど関心をもたれなかった。そして実際、次第に人口問題は大きなものとなっていき、のちに河野稠果『人口学への招待』、増田寛也編著『地方消滅』や八代尚宏『シルバー民主主義』などの作品に接続していく。
過去の変化を冷徹に分析することで、見えにくい未来を提示する。こうした鋭く早い予見と警告を今後も中公新書には期待している。