2016 10/20
私の好きな中公新書3冊

「決定版」を目指す心意気/池内恵

平野克己『経済大陸アフリカ 資源、食糧問題から開発政策まで』
細谷雄一『国際秩序 18世紀ヨーロッパから21世紀アジアへ』
待鳥聡史『代議制民主主義 「民意」と「政治家」を問い直す』

新書とは本来は「商店街の中の図書館」のようなものだった。その分野の代表的な学者による定評のある入門書が、いつ本屋に行っても所定の新書の棚に置いてあり、売れればまた補充されていく。

しかし近年は、月刊誌の特集程度の質と量の新書が平台にひしめいていて、発売月が過ぎると早々に撤去されて見当たらなくなってしまう。「旬」の議論をコンパクトな形で手に取るのも悪くはないが、やはり昔ながらの、ある分野を一般向けに伝える「決定版」を目指す心意気が欲しい。私の思い描く本来の新書のあり方を最も残しているのが、中公新書だろう。

ある程度長く研究者をしていると、多くの書き手を直接見知っていることが、密かな達成感となる。平野克己『経済大陸アフリカ』はこの大陸のごとく奥深く分厚い。細谷雄一『国際秩序』や待鳥聡史『代議制民主主義』のように同世代の秀才たちが次々に「定番」というべき書物を書き上げていくのを、焦燥感を感じつつ、感服して見ている。

池内恵(いけうち・さとし)

1973年、東京都生まれ。東京大学先端科学技術研究センター准教授。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、大佛次郎論壇賞)、『増補新版 イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』(新潮選書)などがある。