オラーフ・ヴェルトハイス 著/陳海茵 訳
多くの人は、オークションに出品された有名な絵画の落札額に驚愕したり、困惑したりしたことが少なからずあるはずだ。なぜ人びとは困惑するのか? その根源には、値段が付けられる「プロセス」の不透明さがある。?実は、絵画をはじめとするアート作品の値段は、作品単体の良し悪しに対する評価ではなく、芸術家、画廊オーナー、オークションハウス、コレクターなど多くのプレイヤーが参加する「意味交換システム」の中で決定される。 本書では、アート市場という特殊な交換の場におけるゲームのルール、「意味の交換システム」の存在を明らかにする。そして、経済学的理論モデル、インタビュー、データ分析、さらに参与観察などの社会学的方法を用いて、その特徴を分析していく。?まず現代アート市場に「一次(プライマリー)」と「二次(セカンダリー)」があることを説明し、両者におけるプレイヤーを整理した上で、画廊とオークションハウスの2業種における値段の付け方の違いを分析する。 たとえば、値段が急上昇しやすい二次市場にたいして、一次市場は「新人芸術家を守る」という使命をもち、最初から高値を付けず、新人が業界内で安定した地位に登るまで少しずつ値段を調節することを暗黙の了解としている。アート作品の値段は、決して一点の作品それだけで決まるものではなく、多くのプレイヤーによる継続的な相互行為によって生み出されるものなのである。 最後に著者は、値段自体もまた「アートの価値システム」において重要なプレイヤーであるとする。経済学では、商品の値段は単なる値だが、それは芸術家とその作品に「象徴的意味(信頼・名声など)」をもたらすだけでなく、アート市場の根幹をなすものでもあるのだ。 美と商業は対立するものと言われてきたが、それでも両者は長い歴史の中で共存しながら「持ちつ持たれつな関係」を築いてきた。本書は芸術と経済の関わりを社会学的視点から丹念に解きほぐしていく。