- 2024 06/20
- 編集部だより
"異世界"に召喚されるって、こういう体験なんじゃないか......。もしかして、この編集部は"平行世界"なのかも???
はじめまして。4月から中公新書を担当することになった"アルムナイ"剛史と申します。
冒頭からやおら、心のつぶやきを活字化してしまいましたが、転職で新たな社風に戸惑っているわけではありません。前職は同じ社内、しかも同じ新書判型の媒体に20年ほどかかわってきました。その自負もあったのに、日々カルチャーショックです。
前部署は中公新書ラクレです。
えっ、ラクレをご存じない!?
たまにクララとかクラレとかクロレラとか間違われます。この認知度の低さは、不徳の致すところ。ラクレはフランス語でLa Clef=鍵という意味で、時事的・ジャーナリスティックな編集方針のもと2001年に創刊され、時代を読み解く鍵を提供しようという新書です。
このラクレと中公新書、前者は「サークル活動」、後者は「ゼミ・研究室」にたとえられるのではないか、と最近ハタと気づいて一人悦に入っております。
どちらも企画を練り上げて良い作品にしようという目標は一緒です。違うのは手段。議論闊達さという点ではどちらも引けを取りませんが、直感的なフリートークのラクレに対し、ロジカルな議論が中心の中公新書。
創刊から60余年の深緑(ヴィリジアン)の杜では、ときに学界動向のインテリジェンス情報が飛び交い、時に部員の論理的な矛盾をつく砲火を浴びせる、忖度なしのバトルロワイヤルが展開されていたのでした。
実は私、他社さんでもうひとつ別の新書編集部に所属していた時期があります。ミリオンセラー『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』をはじめ、『若者はなぜ3年で辞めるのか』『お金は銀行に預けるな』等々、大ヒット連発の編集部です。
中公で10年間働いたうえで初めての転職だったこともあり、この時受けたカルチャーショックも「地球の反対側にもうひとつの出版社があった!」と叫びたくなる衝撃でした。
あまり詳しく明かすと情報漏洩に当たるやもしれませんので、象徴的なエピソードを一つだけ......それは中公で「作品」と言っていたものが、この星では「商品」と呼ばれていたこと。
古巣を揶揄したいのではありません。時代と読者をしっかり見据えて、ニーズのあるものを開発しようという姿勢が徹底しており、それは当時の中公には足りなかったことだと思うのです。「読者調査」「創作出版」「時代を創る」といった社是は、ダテではありません。
ところで唐突ですが、いま企業人事の世界では「アルムナイ」という採用パターンがあるそうです。アルムナイは卒業生、同窓生を指す英単語。ぶっちゃけ「出戻り社員」と言い換えて間違いではないと思います。
私が中公に出戻って14年目ですが、この間も何度か異動を繰り返しました。その都度、前職・前部署で培ったスキルやレベル感をコンバートしようと必死でした。今も現在進行形で模索中です。
微力ながら愛読者の皆さんのご期待に沿えるよう、レーベルの継承と発展に尽力することを誓います。何卒よろしくお願い申し上げます。
願わくはこの異世界物語が、『ルワンダ中央銀行総裁日記』のリバイバル・ヒットのような、ハッピーな結末を迎えますように!(黒)