2021 04/02
著者に聞く

『内戦と和平』/東大作インタビュー

人類の不治の病と言われる戦争。そのほとんどが国家間の紛争ではなく凄惨な内戦です。シリア、イラク、アフガニスタン、南スーダンなど21世紀以降の内戦を例に、発生から拡大、国連や周辺国の介入の失敗、苦難の末に結ばれたはずの和平合意の破綻といった過程を分析したのが、『内戦と和平 現代戦争をどう終わらせるか』です。テレビ局の報道ディレクター、国連日本政府代表部公使参事官、そして研究者として一貫して和平調停に関わる著者の東大作さんにお話をうかがいました。

――2020年1月の刊行から1年少し経ちましたが、あらためて本書執筆の動機をうかがえますか。

東:2009年にアフガニスタンや東ティモールでの現地調査を基に『平和構築』という本を岩波新書で出版したのですが、その後、カブールにあるアフガン国連支援ミッション(UNAMA)の和解再統合チームリーダーとして、タリバンとの和解に実際に取り組む機会がありました。またニューヨークの国連日本政府代表部の公使参事官として平和構築委員会や和平調停に関する統括業務を行うなど、実務に携わる機会にも恵まれました。

2016年以降は、研究者として南スーダンやシリア、イラクなどの調査も始め、2018年と2019年には外務大臣の委嘱による公務派遣で、普段は危険が伴って入ることができないバグダッドや南スーダンの首都ジュバなどを訪問して、副大統領や主要閣僚といった紛争国の指導者に数多くインタビューする機会がありました。そうした実務と研究の双方をまとめた本を出したいというのが大きな動機でした。

テーマとしては、「紛争後に持続的な平和を作る活動=平和構築」についてだけでなく、まだ紛争が続いている最中の「紛争下の和平調停」にも焦点をあてた本を書きたい、というのがもう一つの動機でした。

――『日本経済新聞』『読売新聞』『毎日新聞』の書評をはじめ、さまざまな反響がありましたね。

東:そうですね。まず共同通信社が書評を配信し、『中国新聞』や『琉球新報』、『京都新聞』など全国30社近くの地方紙が掲載してくれました。それから2020年4月に『読売新聞』が「内戦の時代・日本に役割」というタイトルで大きなインタビュー記事を掲載してくれました。またこの本に基づく寄稿の依頼があり、6月に『毎日新聞』に「コロナ禍を人間の安全保障で」というコラムが掲載されました。その後、8月16日のNHK「おはよう日本」に出演して、コロナ禍における平和構築の課題や、日本の役割について話す機会がありました。その後も、9月下旬にNHK「ラジオ深夜便」に、2021年1月にはNHKラジオ「三宅民夫の真剣勝負」に出演し、本で述べた提言をお話しする機会がありました。

このように色々なメディアで取り上げていただいたことは、この本にとって幸運だったと感じています。特に最終章で述べた「グローバル・ファシリテーター(世界的対話の促進者)」としての日本の役割について、多くの記者やメディアの方が共感してくださったことは率直に嬉しく思いました。

――戦争や平和構築を研究することになった経緯やきっかけなどを教えてください。

東:両親が広島で被爆していましたので、小さな時から、いずれは平和作りに関する仕事をしたいと考えていました。最初はNHKのディレクターとして番組作りを通じて関わっていたのですが、戦争を終結させ、持続的な平和を樹立するためにはどうすればよいのか、より具体的な提言をしたいと考え、35歳の時に退職して、カナダのブリティッシュ・コロンビア大学政治学科の修士課程に入りました。その後、同大学で博士号を取得しつつ、国連政務官や公使参事官など、平和作りのための実務にも携わることができたのは貴重な経験でした。

――内戦というと日本の私たちには少し遠い話題のように思えてしまいます。なぜ内戦について考えなければならないのでしょうか。また、日本ならではの貢献のあり方があれば教えてください。

東:21世紀に入って、国家間の戦争は随分少なくなっており、現在の戦争の圧倒的多数が、実は「内戦」です。特に、シリアやイエメンなどで顕著なように、政府と反政府武装勢力の戦闘に、周辺国やグローバルな大国が軍事介入している、いわゆる「国際化した内戦」が増えています。こうした「国際化した内戦」をどうしたら防いだり、止めたり、持続的な平和作りに持ち込めるかは、現代の戦争を解決するための最も重要な課題の一つと言えます。

また、新型コロナウイルスなど地球規模の感染症を解決するためにも平和作りは重要です。感染症など世界規模の課題は、一国だけで解決できるものではありません。仮に一時的に抑え込めたとしても、世界全体で感染が続いていたら、国境を開放した途端に変異株も入ってきて、また感染が流行してしまいます。加えて、世界全体で感染が続くと、世界経済の縮小も続き、ひいては日本企業や日本の雇用にとっても大きな打撃になります。

だから世界全体での解決が必要ですが、軍事紛争が続いている場所では、ワクチンを始め感染症への対応ができないという現実があるのです。ですから、私たちが新型コロナウイルス感染症に打ち勝つ上でも、実は世界各地の紛争を解決し、安定や平和を作ることはとても重要です。そして日本は、これまでの平和国家としての信頼を活かして、紛争当事者間の対話を促進する役割を担えると考えています。

――感染症の拡大で、留学や海外旅行も簡単にはできなくなってしまいました。国際機関への就職や国際貢献を志す若い世代に向けたメッセージをお願いします。

東:今、外国に行くことが難しくなっているのは事実ですが、長期的にみると日本は海外の市場で製品を売ったり、海外でビジネスを展開したりしなければ存続できない国です。また海外でビジネスを行うことは、その国の雇用や産業を生み出す上でも極めて重要です。実際、中東やアフリカに行きますと、日本企業にぜひ投資して欲しいという期待の声を頻繁に聞きます。そうした地域でビジネスを展開することは、その地域の平和作りにとっても大きな貢献となります。

またこれからは、地球温暖化に世界全体でどう対応するかも重要課題です。企業に入り、自然再生エネルギーなどクリーンエネルギーを基軸とした新たな産業革命ともいえる変革を主導することも、地球規模の課題の解決に向けたとても大きな貢献になります。

NGOや国際機関に入って課題解決に尽力することも一つの選択肢ですが、実は企業やビジネスの世界に入っても、地球規模の課題の解決に向けた大きな役割を果たすことができる。だからこそ海外に行って活動するガッツや気概をぜひもって欲しい。若い人たちにはそんな期待を抱いています。

――ありがとうございました。

イラクのマリキ副大統領にインタビュー(バクダッド、2018年2月18日)

東 大作(ひがし・だいさく)

1969年(昭和44年)、東京都に生まれる。NHKディレクターとしてNHKスペシャル「我々はなぜ戦争をしたのか ベトナム戦争・敵との対話」(放送文化基金賞)、「イラク復興 国連の苦闘」(世界国連記者協会銀賞)などを企画制作。退職後、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学でPh.D.取得(国際関係論)。国連アフガニスタン支援ミッション和解再統合チームリーダー、東京大学准教授、国連日本政府代表部公使参事官などを経て、現在、上智大学グローバル教育センター教授。著書に『犯罪被害者の声が聞こえますか』(新潮文庫、2008年)、『我々はなぜ戦争をしたのか』(平凡社ライブラリー、2010年)、『平和構築』(岩波新書、2009年)、"Challenges of Constructing Legitimacy in Peacebuilding"(Routledge, 2015)、『人間の安全保障と平和構築』(編著、日本評論社、2017年)ほか。
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