2020 11/20
私の好きな中公新書3冊

タイムリーにして定番、堅実にして読みやすい/野添文彬

白石隆『海の帝国 アジアをどう考えるか』
宮城大蔵『現代日本外交史 冷戦後の模索、首相たちの決断』
櫻澤誠『沖縄現代史 米国統治、本土復帰から「オール沖縄」まで』

好きな中公新書を3冊選んで、と言われて正直とても難しいと思っている。社会科学というものに興味を持ち始めて以来、現在まで中公新書にはお世話になり続けている。趣味の読書として、勉強のための参考書として、乗り越えるべき先行研究として。持ち運びに便利なので、旅行や出張には必ずと言っていいほど新書を一冊はカバンの中に入れている。

かつて自分が国際政治学や日本外交史の研究の世界に入る上で、高坂正堯『国際政治』、入江昭『日本の外交』、山室信一『キメラ』からは絶大な影響を受けた。悩んでいるときに手をとった福永光司『荘子』も忘れがたい。

ただ、研究者として論文や本を書くようになってから、最近では、将来自分はどういうものを書きたいか、いわば「書き手」としての立場を強く意識しながら中公新書を読むようになっている。「書き手」としての自分にとって、中公新書は見事な「お手本」、モデルを提示してくれている。タイムリーにして定番、コンパクトにして重厚、堅実にして読みやすい。そこで、自分が将来こういう本を書いてみたい、ということをイメージしながら3冊紹介してみたい。

まずは『海の帝国』。この本は、確か高校生時代、自分が新書を手に取るようになって間もないころに読んだ。その題名に魅かれたのがきっかけだったように記憶している。本書は、19世紀から現在まで、地域システムとしてのアジアがどのように形成されたのかを論じた壮大な歴史書である。アジアの地域秩序をどう考えるか、その中に米国や日本をどのように位置づけるか、という本書のテーマは、一貫して自分の研究上の問題意識であり続けている。

次に『現代日本外交史』。混沌とした印象のある冷戦後の日本外交だが、本書では、その背後には、内政と外交が連関していたこと、そして「安全保障」と「地域主義」という一貫した文脈があったことが指摘され、視野が大きく開かれる感覚を抱いた。今日、日本の外交・安全保障政策をめぐっては、日米同盟による抑止力、領土問題や歴史問題が注目され、勇ましい論調が目立つが、こうした議論にとどまらない「豊かな水脈」を見つけることは、現代史研究の重要な作業であることを改めて認識させられた。

最後に『沖縄現代史』。本書は、日米に翻弄され、日本本土とは異なる道を歩んだ沖縄の戦後70年の歴史を、政治・社会、経済、文化・思想と、様々な側面に目配りしながら、過不足なく論じる。先行研究に果敢に挑んでいるが、バランスのとれた記述で中公新書らしく「定番」にふさわしく、沖縄の基地問題を研究する自分としては常に手元に置いておきたい一冊である。本書は、これまた感銘を受けた石原俊『硫黄島』とともに、いわば「周辺」の視点から、日本やアジア太平洋の歴史と今を鋭く問うている。

野添文彬(のぞえ・ふみあき)

1984年滋賀県生まれ。一橋大学大学院法学研究科博士課程修了。博士(法学)。専門は国際政治学、日本外交史、日米関係。一橋大学大学院特任講師、沖縄国際大学講師を経て、2016年から沖縄国際大学准教授。主な著作に『沖縄米軍基地全史』(吉川弘文館、2020年)、『沖縄返還後の日米安保 米軍基地をめぐる相克』(吉川弘文館、2016年、沖縄研究奨励賞・日本防衛学会猪木正道研究奨励賞受賞)など。