- 2020 08/31
- 私の好きな中公新書3冊
鈴木紀之『すごい進化 「一見すると不合理」の謎を解く』
本川達雄『ゾウの時間 ネズミの時間 サイズの生物学』
小宮輝之『物語 上野動物園の歴史 園長が語る動物たちの140年』
私の研究対象であるキリンは、長い首と長い四肢が特徴的な生き物である。私がキリンに惹かれている理由の一つは、“一見すると不合理”にも見えるそのアンバランスな体形だ。
長い首には、「高い場所の葉っぱを食べられる」というメリットがあるが、一方で「バランスを取るのが難しい」「脳みそまで血液を送るのが大変」などのデメリットもある。「不合理にも見えるこのユニークな姿かたちには、一体どんな意味があるのだろうか?」と考えるのが、私の仕事だ。
『すごい進化』は、そんな「生物の不合理に見える性質」を扱った本である。昆虫を中心に研究事例を紹介しながら、不合理さの奥に隠されている合理性(つまり“適応”)を少しずつ解き明かしていく。進化学の概念や知識だけなく、研究の奥深さにも触れられる作りとなっていて、タイトル通り「進化ってすごい」という感想を抱くに違いない。
生物の進化を考える上で、「大きさ」はとても大事な要素だ。大きさが違えば、生きていくのに必要な食べ物の量も、移動に必要なエネルギーの量も変わる。『ゾウの時間 ネズミの時間』は、体の大きさの違いがもたらす影響を明快に解説した本である。大きさを意識するだけで、生き物の見方がこれまでとは劇的に変わるはずだ。本書を読んだあとは、動物園に出向き、ゾウとネズミの体形や動きを見比べてみていただきたく思う。
東京にある上野動物園は、ゾウとネズミを見比べられる動物園の1つだ。最後にご紹介する『物語 上野動物園の歴史』は、オオサンショウウオとクサガメを飼育する小さな展示施設が、約350種の動物を飼育する日本屈指の動物園へと変化していく過程を丁寧に記録した本である。海外の情報が得難い時代、キリンやゾウなど異国の動物の来日にはトラブルがつきものだったようだ。「おなじみ」になるまでに多くの苦労が存在していたことが窺い知れる。多種多様な生物を気軽に見比べられることに、改めて感謝したい。