2020 05/21
編集部だより

はかったようなタイミング

2020年4月、詫摩佳代著『人類と病』が刊行されました。「国際政治から見る感染症と健康格差」というサブタイトルが示すように、国際政治学者がペストを皮切りに現在の新型コロナウイルスそして生活習慣病まで、「人類と病の闘い」を描いた作品です。

中公新書についてよくご存じの方はお気づきかもしれませんが、本書は今般の新型コロナウイルスの感染拡大を受けて企画されたものではありません。

あとがきにも書かれているように、本書の企画がスタートしたのは5年以上前。行きつ戻りつしながら、ようやく2020年春の刊行が固まったころ、武漢で発生した感染症が話題になり始めたのです。

編集を担当しながら、まさかここまでの事態になるとは想定していませんでした。そこで思い出すのが、水島治郎著『ポピュリズムとは何か』。同書も企画のたちあげから数年が経ち、執筆が進んできたところで、イギリスの国民投票により「ブレグジット」が決まりました。そして、刊行前の最終段階でトランプ米大統領当選となったのです。このときも、恥ずかしながら編集担当者として「まさか」の連発でした。

はかったようなタイミングで刊行された背景には、長く、深く、重要なテーマに取り組んでこられた著者の方々の蓄積があります。

もちろん、大きな出来事を受けて緊急出版することも現在の新書の使命だと思います。そうした本もぜひ手がけたいものです。ただ、中公新書としては、重要なテーマの企画を地道に立案し、丁寧に編集を進めるなかで、時にタイミングの合った作品が生まれる、というあり方が本筋なのだろうと思っています。

『人類と病』と同月には井上栄著『感染症 増補版』も刊行され、ともに版を重ねています。こうした過去の作品をアップデートして届けることも大切なのだと思います。コロナ禍の終息を祈りつつ、日々の仕事に取り組んで参ります。(田)