- 2019 04/03
- 私の好きな中公新書3冊
木村敏『時間と自己』
伊藤邦武『物語 哲学の歴史 自分と世界を考えるために』
瀧澤弘和『現代経済学 ゲーム理論・行動経済学・制度論』
大学時代、高校受験のための進学塾で国語講師のアルバイトをした際に、予想問題の体で、初めて自作の現代文問題を作成した。その出典に使ったのが『時間と自己』だ。デジタル時計とアナログ時計の違いを論じている箇所だったと思う。
精神病者の時間意識を分析した第二部「時間と精神病理」は、とにかく興奮して読んだ。未来を先取りたがる人、取り返しのつかない過去に悩む人、「いま・ここ」がすべての人――、こう書けば、誰もが心当たりがあるだろう。時間とはなんと厄介なものか。あれからおよそ四半世紀が経ったいまも時間論に食指が動くのは、同書の読書体験に負うところが大きい。
中公新書の通史本には、「物語 ○○の歴史」という定番のシリーズがある。○○には、ドイツやアメリカ、北欧、中東など、国や地域が入るのが通例なので、『物語 哲学の歴史』という書名がどのような経緯で定まったのか、あれこれと想像してしまう。
だが、看板に偽りのないことだけは確かだ。古代から21世紀までの哲学史を、「魂の哲学」→「意識の哲学」→「言語の哲学」→「生命の哲学」と螺旋状に描いていく物語が、僕にとってはとても刺激的だった。一般には敬遠されがちな分析哲学への目配りが効いている点も、類書にはない魅力だろう。
野心的な見取り図を提出する点では、『現代経済学』も負けていない。副題にあるゲーム理論、行動経済学、制度論を手際よく解説する要約力も驚嘆に値するが、ユヴァル・ノア・ハラリの『ホモ・デウス』、マルクス・ガブリエルの『I am Not a Brain』などを参照しながら、ディルタイ、ヘーゲルで締めくくる終章は絶品だ。狭義の経済学にはおさまりきらない著者が目論む、21世紀の「人間科学=精神科学」の展開を心待ちにしたい。