- 2018 06/15
- 知の現場から
『日本神判史』(中公新書)、『喧嘩両成敗の誕生』(講談社選書メチエ)などで、中世の民衆の姿を明らかにしてきた清水克行さん。ノンフィクション作家・高野秀行さんと縦横無尽に対談した『世界の辺境とハードボイルド室町時代』『辺境の怪書、歴史の驚書、ハードボイルド読書合戦』(ともに、集英社インターナショナル)も話題で、歴史教養番組『タイムスクープハンター』(NHK)の時代考証も手がけるなど、幅広く活躍している。清水さんの仕事場をたずねた。
執筆部屋は、ご自宅から徒歩5分ほどのアパートの一室だ。6畳の部屋で壁面は本棚、中央に机が置かれている。
「息子2人が大きくなり、子ども部屋が必要になったので、自宅の書斎を明け渡しました。2年前からこの部屋を借りています」
まず、歴史に興味を持ったきっかけを教えてください。
「小学校3年生のときに見たテレビドラマ『関ヶ原』(原作・司馬遼太郎、制作・TBS)ですね。石田三成が主人公で、家康よりも良いやつとして描かれています。でも、その良いやつが負けてしまって、子どもながらに衝撃を受けたことを記憶しています。それ以来、戦国時代が好きになりました。『関ヶ原』は非常に面白いので、今でも息抜きにDVDをよく観ています」
もともとは、実家で営む蕎麦屋を継ぐつもりだった。
「就職先は決まっているのだから、大学では好きなことを学ぼうと思って、立教大学の藤木久志先生の研究室へ行きました」
藤木先生は民衆史の研究で知られる戦国史家。研究室には大学院生もいて、研究者になることがイメージしやすく「良い師、良い先輩に恵まれました」と、にこやかに語る。論文の執筆ペースや仕事術についても藤木先生の影響が強いという。
講義のない日は、2日で1冊程度史料集を読み、気になった語句や事柄をメモする。「書くと頭に入ります」と清水さん。
「パソコンは、メールと執筆にしか使いません。史料集の見返し部分(本の表紙の裏の白紙の箇所。表紙と本の中身をつないでいる紙)にメモを取ります。語句とそれが出てきたページはどこか、自分なりの索引を作るんですね。この見返しにメモする方法は藤木先生がやっていたことなんです」
複数回登場した“気になる語句”はノートに書き写す。
「史料に1回しか出ていないものは、ただの特殊な例。2回でも一般的とは言い難い。3回以上出てきた事例は、論文に書けるのです」
歴史研究者には「先行研究を読み込んで、調べるポイント決めてから史料を読む」タイプと「ひたすら史料を読んで、新しい論点を発見する」タイプがいるのだそう。
「僕は完全に後者です。でも、史料を読んで面白い発見をしたぞ! と思ったのに、先行研究を調べたら他の人が先に論文を書いていたということもありますけど」
「原稿を書いているときよりも、講義をしているときよりも、史料を読んでいるときがイメージがふくらんで楽しい。読むときは無責任でもいいんですよ」と笑う。
「史料を読みながら、中世の人たちの考え方について、さまざまな可能性を追求します。考えているときが一番自由です。いろんな事例を突き合わせて、論理的に絞り込んだことを講義したり、原稿に書いたりすることになりますので、読むのに比べると話すことや書くことは少々不自由に感じます」
歴史学研究で重要なのは「常識にとらわれないこと」だという。「中世の人たちは、現代の感覚とは全く違う価値観、論理で動いています。私たちの常識が邪魔をして、大切なことを見落とすこともあります。頭の柔軟さが必要です」
これからも清水さんは、常識にとらわれない発想で日本中世研究を進展させ、読者の期待に応えてくれそうだ。